声優
『佐倉綾音の伝え方』優しい声のコミュニケーション論

『佐倉綾音の伝え方』優しい声のコミュニケーション論

声の仕事と音の種類

ーー今回のWeb動画のような“顔出しでのお芝居”については昨年のインタビューでもお伺いしましたが、2019年には朗読劇『青空』に出演されるなど、新たなチャレンジもされていましたよね。この1年間、佐倉さんの中で役者として守備範囲のアップデートがあったのかなと。

『青空』に出演する以前は、ずっと朗読劇のお仕事をお断りしていたんです。オファーをいただく機会はあったのですが、ある種の食わず嫌いというか、自分の中でちょっとそのジャンルが腑に落ちていなくて。

でも、マネージャーから「一回だけやってみたら?一回やって、もういいと思ったらそれでいいから」と言われて、送られてきた資料にふと目を通すと、野良犬と野良猫の物語で。

ちょうどそのとき、私の家で野良猫を保護していたんですよ。うちには犬もいるので「なんだろう、このタイミングは…」と。それで「やってみます」とお返事をして。

本当に一度きりのステージだったんですけど、アニメ作品の朗読劇やリーディングライブのようなものとも少し板の雰囲気が違う場所だったので、とても良い経験になりました。

ーー運命的なタイミングだったんですね。朗読劇を通じて、役者としてお芝居の引き出しが増えた感覚はありましたか?

やはり私たちとは違うフィールドで活躍されている役者の方々とのやり取りは新鮮でした。例えば、劇場版作品のゲストキャラクターで俳優の方が入ったりするときも、すごく参考になるんですよ。出てくる音の種類や音階が、こちらの世界の人間が出すものとは違うというか。それは朗読劇でも感じましたね。

ーー音の種類でいうと、テレビやラジオで活躍されているナレーターさんの声もまた違いますよね。

それに関してはずっと考え中なんですよ。私は普段、理詰めでお芝居を考えてしまうんですけど、ナレーターというのは“ふと耳に届く音”を作る人たちだから、「どうしたら聴いたことのある音になれるのか」ということを結構気にしていて。

例えば、局のADさんがパッとテレビを見たときに「なんかこの声聴いたことあるな、このナレーターさんに仕事をお願いしよう」という流れでオファーがくることも多いそうです。

ーー佐倉さんは現在『ミュージックステーション』などのナレーションを担当されていますが、特に意識するようになったきっかけは何だったのですか?

小さい頃はあまりテレビを見ることがなかったのですが、20歳を過ぎてリモコンを自由に触らせてもらえるようになってからは、バラエティやワイドショーを見るのが好きになり、それからナレーションに触れる機会もすごく増えて。

現場の知識と経験がない人間からすると、自分が挑戦したり、気になるジャンルに触れたりしたとき、まずは好き嫌いでしか物を見られないんですよね。「この人の声が好き」「抑揚の付け方が好き」「文章の切り方が好き」とか。

でもバラエティなどのテレビ番組を見ている人は、きっとそれくらいの感覚でナレーションを聴いているはずだから、意外とこの感覚は間違っていないのかなと。

ーーそこに売れているナレーターさんの共通項があるのかもしれないですね。

周りの先輩方にお話を伺った際にも、ナレーターで仕事があって強いのは「聴いたことのある声を持つ人」「個性のある声を持つ人」「人間の日常に溶け込める目立たない声を持つ人」など様々な意見があって。

私の身近にいらっしゃる方だと、『ミュージックステーション』でお世話になっている服部潤さんは、声にわかりやすいクセがあるんですけど、それがずっと聴いていたいと思う抑揚なんですよね。あと、たまに英語と日本語の間のような読み方をするときがあって。あれは服部さんにしか出せない声だなと思います。

また別のタイプのナレーターさんでいうと、真地勇志さん(『一億人の大質問!?笑ってコラえて!』や『秘密のケンミンSHOW』などのナレーションを務める)の声は、どんな声なのかと聞かれても説明ができないんですよ。それくらいとてもニュートラルなのに、「あの人の声は聴いたことがある」と思う特徴がありながら、日常に溶け込んでいて。声優と同じく、ナレーターにも色んな武器の持ち方があるのだと思いました。

ナレーションにおける表現と声の響き

ーー表現の面で見ると、声優業とナレーター業の差をどのような部分に感じますか?

ここからは少し技術的な話になるのですが、例えば、喋り出しがどういう音だったら聴いている人をその世界に引き込めるのかと考えたとき、勢いよく「今日は!」といくのか、優しく「今日は…」といくのか。

句読点の切り方も、次にどういう話題がくるのかを予想させない方がいいのか、逆に、予想させて煽る感覚を視聴者の無意識下に与えるのか、ということを考えるんです。

でもナレーションの仕事は基本的に初見原稿なので、そんなに考える余地がないことの方が多いんですよ。録った1ブロックを確認されているときに、ナレーターは次のブロックに目を通して、「ここを抜く、ここを入れる」ということをチェックするんです。自分でもそれが正しいのかわからないまま、感覚でどんどんやっていくしかなくて。

ただ、ナレーションの場合は上手くいかなったり、ちょっと噛んだりしてもリテイクが出ないので、そこはある種の“消費”であり、声優業とナレーター業の差なのかなと感じます。

ーーコンテンツの目的の差もあるのかもしれませんね。

そうですね。声優の養成所にいたときにナレーションのコツを教わったんですけど、「感情を入れずフラットに」ということをひたすら言われていたんです。でも原稿を噛まずフラットに喋るというのは、声優でもナレーターでもなく、キャスターさんのお仕事なんですよね。

私たちは普段声優として活動していますが、この声優とキャスターの間にあるナレーターというのは何なのかと考えたときに、番組によってナレーターの立ち位置ってすごく変わるんですよ。

番組の登場人物の気持ちに寄り添うナレーターなのか、それとも、感情移入せず俯瞰的に淡々と状況を伝えるナレーターなのか。新しい番組にお世話になるときには、そこを一番最初に確認します。

ーー確かにドキュメンタリー番組などを見ていても、内容によってナレーションの声の感じが違っていたりしますよね。佐倉さんが「このナレーターさんの引き出しが欲しいな」と思う声ってありますか?

また別のベクトルになるのですが、NHKで女優さんがボソボソとナレーションをしているような番組が好きで、良くも悪くも耳を傾けてしまうんです。その人が何を言おうとしているのかに寄り添ってしまうというか。それは決して良いナレーションではないときもあるんですけど、“声の素人の方にしか出せない声の響き”があって。

以前、舞台関係の方とお話をすることがあって、その際に少しだけ声のレッスンをしてもらったんです。そのときに「佐倉さんの声は通りすぎる。もっと“響かない声”って出せないの?」と言われて。それが、できなかったんですよ。

でもそれは、一般の人や、私がよく感じる顔出しの芸能人の方の声のことなのだろうなと、なんとなくわかって。ラジオを聴いていても、アナウンサーの方と、そうではない方を比較すると、声の響きが明らかに違うんですよね。その素人の方の声が欲しいんですけど、それをどのように出しているのかが全くわからないんです。その方たちも意識して声を出していないから、説明もできないわけで。

おそらく同時に手に入るものではないので、それを習得するためには失うものもあるだろうし、使うシーンもほとんどないとは思うんですけど、どこかで活かせる日がくるのかなと思って、つい練習してしまうんです。

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