たまにはキツイ漫画を読んでもいいーー『少年のアビス』の魅力を紹介!|登場人物たちが覗かせる“深淵”は「ドロドロしているけど綺麗な物語」!
週刊ヤングジャンプにて連載中の峰浪りょう先生の漫画『少年のアビス』。主人公・黒瀬令児の「心中」未遂をきっかけに巻き起こっていく愛憎劇が描かれる“スーサイドラブストーリー”です。
現在、単行本が第5巻まで発売されており、「次にくるマンガ大賞 2021」コミックス部門にノミネートされるなど大きな盛り上がりを見せています。
本作は、閉塞感漂う田舎を舞台に、登場人物たちの内に秘めた闇や絶望=アビス(深淵)を巧みに描き、徐々に徐々に息苦しくなっていくような独特の読後感が味わえる作品。
これまで、所轄「ドロドロ」した作品はバイオレンスのイメージが強く、あまり好んで触れてこなかった筆者ですが、本作には見事にハマりました。直接的な暴力描写がほぼなく、「中身は醜悪だけど表面上は綺麗」というスタンスを一貫して感じられるビジュアルとなっているからだと考えています。
今回は、そんな「ドロドロしているけど綺麗」という不思議な感覚を味わえる漫画『少年のアビス』の魅力をご紹介します!
それぞれの“深淵”を覗き、覗かれながら進む愛憎劇
家族や幼なじみ、田舎のしがらみから将来を悲観する高校生・黒瀬令児。本作は、そんな彼がある日、憧れのアイドル・青江ナギに「心中」を持ちかけられたことで変化していく様子や周囲との関係を描いた作品です。
テーマはずばり、タイトルにある通り「アビス(深淵、地獄)」。ここで言うアビスは「人間の奥深くにある一番生々しい感情」といったところでしょうか。
登場人物全員が、周囲の人間の身勝手な期待や閉ざされた将来、自分たちを取り巻く環境などに不満や絶望を持っており、それを隠してこれまで生きてきました。しかし、「青江ナギ」という“異分子”が町にやって来たことで綻びが生じ、徐々に各キャラの黒い本音が漏れ出ていくのです。
すぐ逆上し大声を上げるニートの兄、要介護者である高齢の祖母、ふたりの相手で疲れ切った母、といった家族の問題と、「家族を困らせないために家を出ずに地元で就職するべきだ」という周囲のプレッシャーがある主人公・令児の境遇をはじめ、ひとりひとりの抱える闇が相当ヘビー。
中でも、一際強烈な闇を見せつけるのが令児のクラスの担任教師「柴ちゃん先生」。「卒業したらどうせみんな自分のことを忘れる」と、毎年変わり映えのない自分の人生を悲観していましたが、令児の自殺を止め保護したことで「誰かに必要とされている」という快感を覚えてしまい、彼への狂気的な執着心を見せ始めます。
彼を田舎に縛り付けている母親と心理戦を繰り広げたり、教師という立場を利用して自分以外の人間に頼る選択肢を奪っていき、彼を独占しようとするさまは読んでいてゾッとすること間違いなし。彼女にフィーチャーしたPVが作られていることからも、本作を象徴するようなキャラクターとなっていることがうかがえます。
そんなドロドロとした人間関係が濃密に描かれていながらも、気持ち悪くなりすぎないのが本作の魅力のひとつ。これは繊細で美しい絵柄と、刃傷沙汰のような直接的なバイオレンス描写が少ないからだと思います。
本作で描かれるのはあくまで精神的な暴力。「中身は醜悪だけど表面上は綺麗」というスタンスで一貫しており、絵柄だけで見れば実に綺麗なんです。紙の単行本を手に取った方なら分かる通り、カバーの手触りも良いですし、表紙もオシャレ(筆者はこういうのに弱いです)。
令児とその家族、幼なじみの間で過去に起こった出来事の詳細が明かされていなかったり、作中に登場する架空の文学作品とその作者がなにか重要な秘密を握っていたりと、ミステリ的な要素があることもポイント。なにをしでかすか分からない登場人物たちにハラハラするとともに、謎が明らかになっていくことで、より次のページへの興味が掻き立てられるのです。
黒々とした人間関係の果てに令児たちは幸せになれるのか。そもそもなにをもって幸せとするのか。アビスを覗き、覗かれた者たちの、続きが気になること間違いなしな物語をぜひ追ってみてください!
[文/篭法]
となりのヤングジャンプ『少年のアビス』作品ページ
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中学までは運動部だったが、だんだんインドア趣味になり、今では完全に陰の者。小説が好き。ライターを志すきっかけになったアニメは『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』。その他に好きな作品は『91Days』『SSSS.GRIDMAN』『ワンダーエッグ・プライオリティ』など。アイドル系の作品にはあまり触れてこなかったが、1年ほど前から『シャニマス』にハマり、ライブにも足を運ぶようになった。