
「夏江杏」は“過去の勝利”ではなく、“この先も一生勝ち続ける”ことを考えている|『花は咲く、修羅の如く』夏江杏役・和泉風花さんインタビュー【連載第4回】
「これが朗読か!」と思わずうなった、整井先輩の古典の朗読シーン
──第4話までで印象的なシーンはありましたか?
和泉:すごく印象深いのは、第1話です。幼少期の西園寺修羅の朗読シーンで、日笠陽子さんが演じられているところを聞かせていただいたんですが、ブースの中にいるみんなの「一音も聞き逃すまい」という空気感がすごかったです。
修羅という圧倒的強者と、日笠さんという圧倒的な存在の朗読……「こんなの聞き逃したらダメだろう!」ということで、息ができないくらい空気が張り詰めていました。本当に修羅の朗読をあのホールで聞いているかのようだったし、何テイクか聞かせていただいた中でも、私では想像もできないようなアプローチで演じられていて。子供の声だけれど圧があって重みがあるんです。
言葉で表現するのはめちゃくちゃ難しいはずなのに、日笠さんが生み出すもので、こちらが鳥肌が立って、息ができないものになっている……それに圧倒されました。私が今まで経験した中でも、一番緊張感のあるブース内だったので、とんでもない経験をさせていただいたなと思いました。(取材を見学中の藤寺さんも何度も頷く)
──それほどまでに! ほかにはありますか?
和泉:整井(良子)先輩の古典の朗読シーンが、文章の内容は全然わからないけれど、文章が伝えたいことはわかる、という音だったので「これが朗読か!」と思いました。
安野(希世乃)さんも『更級日記』を一週間かけて読んできたとおっしゃっていて。全然内容を知らない私にも伝わってくるって、本当に朗読ってすごいですよね。
──「読み手が文章の意味を理解してたら、聞き手にもちゃんと伝わると思う」と整井先輩が言っていたことを実践されていたんですね。
和泉:そうなんです。そのあと花奈に「どうして古典を選んだんですか?」と聞かれて、「好きだから」って言うところも、めっちゃ好きでした! 気持ちがいいまでにスッと入ってきました。第4話は、安野さんのお声も相まって、全部の情報がつっかえることなく自分に入ってくるようでした。
──杏は、好きではなく、勝つために自分に向いているアナウンスを選んだ人ですからね。第5話を含めても、やはり朗読シーンが、この作品の大きな見どころになっていますね。
和泉:それはもちろんそうだと思います。これまでの荒削りとされていた花奈ちゃんの朗読で、すでに引き込まれていましたし、第5話ラストの、粗削りから一歩成長した朗読もすごかったです。私の語彙力がなくて申し訳ないんですけど(笑)。
ちゃんと教えてもらって、練習の積み重ねがある朗読だとわかったので、アニメってすごいなと思いました。朗読の基礎を意識しつつ、花奈ちゃんの表現力を損なっていないと言いますか。夏江杏として、ちゃんと「ギクッ」ってなれる朗読だったので、本当にすごかったです。終わったあとも「すごかったね」って(瑞希役の)島袋美由利さんと話していたくらい感動していました。
彼女はこの先も一生、勝ち続けることを考えている
──第5話は花奈と杏の考えの違い、そしてそのぶつかり合いが描かれるエピソードでしたが、いかがでしたか?
和泉:ふたりとも無意味にぶつかっているわけではなく、「こうあってほしい」「こうあるべきだ」という自分の信念をぶつけているので、「それって和解はできないよね」って思ったんですけど(笑)、杏ちゃんが花奈の朗読を聞いて、「ちょっとはできるじゃん」と認めたことで近づけたというか。これからそういう積み重ねが、2人の距離を近づけていくのかなと思いました。
この2人って「ライバル」という言葉を使うのは少し違うと思うんです。今回の話を通して、夏江杏を通して世界を見ていた私からすると、花奈ちゃんへの解像度が高まったんです。「ムカつくし、何なの?」って思うんですよ。認めたとしても「何なの?」と。
それは最初は「素人のくせに何なの?」だったんです。良いものを持っているのに、周りに流されて、自分がない。努力をしているのかもわからない、という認識だったのが、良い朗読を聞いて、「何なの? こいつ、できるのかよ! でも私のほうができますけどね」の「何なの?」になって。ちょっと方向性が変わった感じがしました。なので、このエピソードを通して、友達ではないけれど、仲が悪いわけでもなくなったのかなって思っています。
──杏的には、花奈に対して結構きつい言葉を言っていたと思うんですが、それでも友達になろうとする花奈が印象的でもありました。
和泉:花奈ちゃんってすごいですよね。弱そうに見えるけれど、実はすごく強い! めちゃくちゃ自分を通す意思があるんですよ。
──結構、意思は曲げないんですよね。
和泉:ある意味頑固ですよね。でも、杏ちゃんも頑固だから、そりゃあぶつかりますよ(笑)。
──少し話は戻りますが、杏が、朗読の中でもこの本を読んだほうがいいと勧めるところでは、花奈の朗読の才能について、認めているんですよね。
和泉:そうですね。嫌いだから突っかかっているというより、杏の中で正解があって「良い声を持っているんだから、こうしたら勝てるよ」って思うから、そうしてほしいんだけど、言う通りにしないというところと、「先輩先輩」って声をかけて、先輩からかわいがられているところが、さり気なく杏の地雷を踏み抜いているんですよ(笑)。
──花奈は「好き」を基準に「Nコン」で読む作品を選ぶけれど、杏も、勝つために選んでいるという意思を曲げないんですよね。
和泉:そこが真っすぐなのが本当にカッコいいですよね。ラストの、朗読には行かずに「アナウンスを選んだのはアタシの意思よ」って言うシーンを原作で初めて読んだとき、「めちゃめちゃカッコいい、この人!」って思いました。本当に、夏江杏は、何歩も私の先にいる存在だなって思います。
──第5話を通して、「アタシはね『負けるアタシ』が大嫌いなの」という杏の信念がはっきりと出てきたので、杏についても解像度が高くなるんですよね。
和泉:そうですね。第5話で、たくさん杏について考えさせてもらいました。音としては冷たいというか、冷静な音で表現することが多かったんですが、心的には熱く持っていくシーンが多くて、「『負けるアタシ』が大嫌いなの」も、顔や声は冷ややかですが、「絶対に負けない!」という胸の中の熱い思いを言葉にさせていただいたので、「これこそ夏江杏だな!」と思いました。
最後の堤防のシーンでは、花奈を「認めた」とまではいかずとも、前よりは下に見なくなっていて。杏も過去のイヤな思い出を話す場面があるんですが、それでも気持ちや思いは負けていないんですよね。だからこそ、アナウンスのほうで、これだけ努力ができるんだと思います。
──過去の話をしたあと、「勝利だけがアタシの渇きを満たしてくれる」って、完全にスポ根アニメのセリフだなと思いました(笑)。
和泉:カッコいいセリフですよね(笑)。ここは監督に「この先の優勝を想像して言ってください」と言われたんです。私は最初、過去の勝利を思って言っていたんです。でも確かに、夏江杏は過去の勝ちではなく、「この先も一生勝ち続けることを考えているんだ」とすごく腑に落ちましたし、異様なまでの勝ちへの執念がある子だなと思いました。
──負けず嫌いですね。
和泉:「負けず嫌い」という言葉ではすまされないくらいのものがあるんだなと思いました。あと、原作を読んだときもすごくびっくりしたんですが、「アタシも無理矢理押し付けて悪かったわ」って、ちゃんと謝っているんですよね(笑)。このあたりが、すごく絶妙なバランスの子だなって思いました。「ちゃんと謝れるんだ」と。まぁ、花奈ちゃんが先に謝っているからかもしれないですけど。
──花奈は、その後「もう友達だよね!」って言ってくるから、調子を狂わされそうです。
和泉:狂わされていますよね。まぁまぁ鬱陶しいと思いますよ(笑)。
──藤寺さんとの掛け合いはいかがでしたか?
和泉:第5話で、花奈ちゃんとの掛け合いがいっぱいあったんですが、すごくやりやすかったです。杏の気持ちを動かしているのが、全部花奈ちゃんなので、ちゃんと杏がそういうふうに思えるような言い方、声の掛け方をしてくれるんです。ちゃんと鬱陶しいというか(笑)。こっちが、「うっ」って思う言い方をしてくるので、「恐るべし!」と思いました。
──では最後に、今後の見どころや楽しみにしてほしいことを教えてください。
和泉:映像作品をみんなで撮る回があるんですが、そこはみんなで部活している感じがありますし、朗読とはまた違う作品づくりというところになるので、楽しみにしています。
あと私としては、杏の恋愛を応援しているので、秋山松雪くんとの距離が縮まることを期待しています(笑)。
[文・塚越淳一]
作品概要
あらすじ
「お前の本当の願いを言え、アタシが叶えてやる」
「私、放送部に入りたいです」
入部を決意した花奈は、たくさんの〝初めて〟を放送部のメンバーと共にし、大好きな朗読を深めていく…。
キャスト
(C)武田綾乃・むっしゅ/集英社・すももが丘高校放送部










































