
抱えているものがヘビーだったとしても、それを“ドラマチック”に脚色しない。内面を表に出しすぎないからこその難しさとは|『花は咲く、修羅の如く』秋山松雪役・山下誠一郎さんインタビュー【連載第5回】
花奈ちゃんに、姉と近い何かを感じていたのかもしれない
──第7話の劇中ドラマの話でいうと、まず秋山が脚本を書き、キャストを決める際に、主人公の航大役を冬賀にしようとしますが、冬賀に秋山がやったほうがいいと言われます。その後、芝居ができない秋山に「俺はお前が演技ができないとは思えない。普段から胡散臭いいい子の芝居してんじゃねぇか」と冬賀が言うシーンが、とても印象的でした。
山下:本当にそうだよなって思いました。普段からそういう仮面を被っていることに悪意はないし、彼の家庭環境を考えると、長い年月をかけて熟成されてきたものなんだろうなと。意識しているわけではなく、癖になっていると思うんです。
でも、これを演技として表現するのは大変で……(苦笑)。僕はどちらかというとフィーリングというか感情優先で、冬賀のように、好きなものに真っすぐでありたいタイプなんです。仮面を被るとかができないので、気を抜くと馴れ馴れしく聞こえてしまって、そこのバランスが難しかったです。
あの冬賀のセリフは僕もすごく印象に残っていて、これはとある役者さんが言っていたことなんですが、人間はみんな、いつでも芝居をしているんです。たとえば、子供と向き合っているときと、友達と電話で話すときのトーンって違うじゃないですか。それはもう芝居なんだと言っていて、僕はそれをずっと格言のように思っていたので、だからこそ松雪を普通に演じなければいけないと思いました。
──秋山にとっては、それは無意識にやっていたことですからね。でも、それをはっきり言って、ハッとさせるあたり、冬賀には監督としての才能があるなと思いました。
山下:そうかもしれないですね。あと「よーい、アクション!」って冬賀が言うじゃないですか。これは僕の妄想なんですが、冬賀は、これをやりたかったんだろうなと。これまで溜めていた監督欲、演出欲がすごく出ていると思ったので、すごく好きなシーンでした。とても楽しそう。
──劇中ドラマはどうでしたか?
山下:姉がモデルになっている紬役を花奈ちゃんが演じているんですが、最後の海辺でのシーンは、姉が重なったのだろうなと思いました。姉がほとんど書いた自分たちの詩を、花奈が読んだことで、初めて立体化されて、ハッと感じるものがあった。
第6話で、花奈ちゃんを取材したのも、「どこか姉と近い何かを感じていたのかな?」って勝手に思っているんです。別に恋慕とかではないけれど、どこか惹かれてしまう。そういう引っ掛かりがあったんじゃないかなと。
──心を動かす花奈の詩の朗読があったからこその、最後の「天才だと思った」という、秋山が航大として、アドリブで漏らした言葉につながるんですね。
山下:そうですね。ただ、航大って最初、演技が下手なところから始まるので、そこから最後の「天才だと思った」に持っていくのは大変でした。本当に「下手」がよくわからなくて、「声優を目指して半年くらいのときに言われ続けていたことを思い出して」と言われて、何とかできたんですが、思い出したくないことをたくさん思い出しましたね(笑)。
──藤寺さんのお芝居はいかがでしたか?
山下:藤寺さんは、ライブイベントのパフォーマンスなどは以前拝見していたんですが、お芝居でご一緒するのは今回が初めてで、どんな演技をするんだろうと思っていたら、想像以上の花奈ちゃんだったんです。これは『花修羅』のキャスト全員に言えることなんですが、性質的に合う方をキャスティングされていると思うんですよね。
で、ここまで花奈ちゃんは朗読がうまいキャラクターという描写がされてきましたが、ここにきて、「演技もうまい」という設定がきたんですよね。声優として花奈を演じているんですが、さらにその上に、ドラマで紬を演じているっていう。もうよくわからない感じになっていたんです。僕もよくわからない状態で、“航大を演じている松雪を演じている僕”みたいな(笑)。
──劇中劇って、本当に難しいですよね(笑)。
山下:でも藤寺さんは、素養の部分で、グッと憑依する感じが花奈に近いんだろうなって思いました。これは小清水さんとも話していたんですが、ディレクションに対して、ちゃんと自分で咀嚼して、自分の言葉で演技として返せているんですよ。
キャラクターのカテゴリーで見たときに、花奈って、瑞希とか杏ちゃんに比べるとフラットなので、どちらかというと秋山寄りな気がするんです。だからこそ難しい。でも、花奈ちゃんが内に秘めている熱量って、冬賀や杏ちゃんにも負けないものがあって。
だからこそ、朗読のときの凶暴性とかはすごく魅力的だと思うし、その上で天然で人を惹きつける魅力を持っている。そんな花奈の魅力を引き出せているのは、藤寺さんの力があってのものだなと思いました。しかもそれがこの年齢でできている……僕はこの年齢のときは、ただ声優に憧れていただけだったので、すごいなって思いました。
──ちなみに劇中劇でもう一つ面白かったのが、撮影の天敵として、吹奏楽部が出てきたことですよね(笑)。
山下:あはははは(笑)。「くっそー!吹奏楽部めっ!」って瑞希が言っていましたね(笑)。あれは、ファンが喜ぶやつです。
──あと、第6話・第7話でも顕著でしたが、秋山は杏に相当好かれていますよね。
山下:ここも僕がちょっとでも芝居を間違えると、調子に乗っているように聞こえてしまうので、注意していました。松雪は家のこともあるので、人を好きになるようなことはあっても、今は「やらなければいけないこと」のパーセンテージのほうが多くを占めていると思うんです。なので、ちょっと鈍感であってほしいというか……これは山下の考察ということにしておいてください(笑)。
──でも、結構わかりやすかったですよね。
山下:そうなんですよね(笑)。ただ僕、意外とそういうところに聡い花奈ちゃんがいいなって思うんですよ。初手から気づいていたので。こういうことにアンテナがある花奈ちゃんって面白いなと思いました。
山下さんが現場の熱量をあらためて感じたエピソードとは?
──そのほかに、気になったシーンはありますか?
山下:吉祥寺先生のイントネーション講座が面白かったです。アニメではよりわかりやすく表現されていたので。このあたりも、原作を忠実になぞるだけでなく、アニメーションならではの見せ方をしていることに喜びがありますよね。普通、シーンを入れ替えたりすると、整合性を取るのが大変だと思うんですが、スタッフさん含め、とても熱量が高い作品なので、そういうことも妥協なくやられていて。本当にいい座組だなぁって思います。
吉祥寺先生役の遊佐浩二さんは、いつも現場を盛り上げてくださるし、アクセントやイントネーションをイチから解説するような役柄の中で、京都弁で臨まれているのがすごいんですよね。方言って、そのあたりのルールをある意味置いておいて、独自のものにしていくものなので、聞いていて、すごい!って思います。
あと、これも熱量に関することなんですが、第6話で、遊佐さんがスケジュールの都合で別録りだったのですが、吉祥寺先生と花奈ちゃんのシーンで、藤寺さんがアドリブを入れながら演じなければいけないところがあったんです。そこで藤寺さんがやり取りしやすいように、吉祥寺先生役を坂泰斗くん(箱山瀬太郎役)が代読することになって。これも面白い取り組みだなって思いました。藤寺さんは、もちろん一人でもアドリブは入れられると思うんですが、言葉のキャッチボールがあったほうがいいのではないかと考えた現場の判断はすごいなあと。
──藤寺さんがよりやりやすくというのが前提にありつつ、掛け合いを大事にしている作品だからこそのこだわりがあったのでしょうね。では最後に、今後の見どころについて教えてください。
山下:その場その場の情景や情感を大事にしたドラマを作る、という意気込みのもと、アフレコが進んでいます。また、そういうアニメを作ろうと全員で取り組んでいる作品ですので、それが伝わっていればと思います。
回を重ねるごとにキャラクターの魅力が見えてくるし、(取材時点では)まだ僕らは最終回がどうなるのかを知らないんですが、手強い魅力的なキャラクターたちも登場するので、楽しみにしていてください。その中で、すももが丘高校放送部のみんな、そして花奈ちゃんがどう成長していくのかが、見どころになってくると思います!
あと個人的には、次に収録する舞台『叫』で、修羅さん(CV:日笠陽子)がどんな朗読をするのかを楽しみにしています。この作品に関われて良かったなと思っていますので、またどこかで語れる機会、みなさんとこの作品の良さを共有できる機会があればと思いますので、よろしくお願いします!
作品概要
あらすじ
「お前の本当の願いを言え、アタシが叶えてやる」
「私、放送部に入りたいです」
入部を決意した花奈は、たくさんの〝初めて〟を放送部のメンバーと共にし、大好きな朗読を深めていく…。
キャスト
(C)武田綾乃・むっしゅ/集英社・すももが丘高校放送部










































