
「最終章は、第1章から第3章までのすべてを内包しているのかなと思いました」『チ。 ―地球の運動について―』アルベルト役・石毛翔弥さんインタビュー|ラファウから始まったこの物語の終着点を見届けてほしい
収録での心強い味方は、ヨレンタ役の仁見紗綾さん!?
──収録の雰囲気はどんな感じだったのでしょうか?
石毛:最終章は登場人物がとても少なくて、アルベルトが関わるのは告解室でのレフくらいで。1対1の対話の形が多かったので、ある種心地いい緊張感の中で粛々と収録させていただきました。
──シリアスなお話でも、休憩中や収録後には和やかにしているというお話はよく聞きますが、ここではそんな感じでもなく?
石毛:シーンに沿った感じかもしれません。現場も静かで、教会の中のようにとつとつと厳かな感じでした(笑)。
──そんな収録の中で話せる裏話はありますか?
石毛:ヨレンタ役の仁見(紗綾)さんは初回から参加されていて僕が収録する回にもいてくださったので、音響監督の小泉(紀介)さんからも「仁見さんが1話からすべて把握しているから、何か困ったら彼女に聞きなさい」と言われました(笑)。少しではありますが実際にお話しさせていただいたり、収録の雰囲気も聞けたので心強かったです。
──第24話ではラファウとの掛け合いもありましたが、坂本真綾さんからもお話を聞いたりされたのでしょうか?
石毛:掛け合いのシーンは少年期でしたし、収録自体も残念ながらほとんど別だったのであまりお話はできませんでした。なのでこの第24話のオンエアをご覧になって、どう思われたのかなとちょっとソワソワしています(笑)。
──ちなみに、原作者の魚豊先生とはお会いされましたか?
石毛:最終話(第25話)の収録に来てくださいました。収録が終わって、スタジオの扉を開けたらスタッフさんたちが並んでいて、その中に魚豊先生もいらっしゃったので、「ありがとうございました」とご挨拶させていただきました。ただ、ゆっくりお話しさせていただく時間はなくて。
──魚豊先生にインタビューさせていただいた時、大学の哲学科出身ということで身構えて行ったら気さくで楽しい方で、「この方がこんな壮大で、重厚な物語を生み出したのか」と驚いたことを覚えています。
石毛:そうなんですね。僕がご挨拶した時もとても優しく迎え入れていただきました。
各キャラクターの心情や想いが身近に感じられる“生々しさ”が詰まった第24話
──第24話について、振り返ってみた感想をお聞かせください。
石毛:第23話(「同じ時代を作った仲間」)は、ドゥラカたちが最期を迎えた後にアルベルトが登場する、いわばお披露目みたいな感じでした(笑)。そこから第24話で、「この章はこんな感じです」と提示されるので、視聴者の皆さんにいろいろな想像をしてもらえる回になったのではと思います。
──これまでの章とは違う、静かな始まり方だなと思いました。
石毛:第1章冒頭の拷問シーンのような残虐さがあるわけでもなく、コミカルさや明るさがあるわけでもなく、何気ない日常生活の一コマを描いているような時間の進み方でしたね。
──最初のアルベルトと親方との会話で、親方が職人としての気持ちを語っていたシーンは心に刺さりました。働く人誰もが共感できるような、いいセリフだなと。
石毛:石毛翔弥としては「良いこと言っているな」と思いましたが、アルベルトとしては「それは納得できないな」と、2つの想いを持ちながら演じていました(笑)。親方の懐の深さを感じたシーンでした。パン屋さんにいる時のシーンでも、アルベルトがお客さんに尋ねられて言葉に詰まっている時に「パンが焼けたよ!」と叫んでくれて。あれは意図的に助けてくれたと思うし、アルベルトのことを気にかけてくれているんだなと感じました。第25話でも親方が良いことを言ってくれるので楽しみにしていてください(笑)。
──そしてアルベルトにとって、気持ちを揺さぶるような出会いもありました。
石毛:アルベルトはレフとの会話で劇的に心情が変化したとは思っていなくて、あくまで最後の一押しをしてくれたのかなと。それもひとつの出会いですし、教会にパンを届けるように親方から言われて、到着したら誰もいなくて。あの時パンを置いて帰ることもできたけど、運命的でとても良い選択をしてよかったです(笑)。
──あと家庭教師としてラファウが登場したのも驚きました。しかも少し成長していたような?
石毛:第1章と繋がっていることへの喜びもあるし、今までは「15世紀前期のP王国」と表記されていましたが、この最終章から「1468年ポーランド王国」と明記されて「これはどういうことなんだろう?」と頭の中で想像が巡ったり、感情が乱れてしまう方もいたかもしれませんね。
僕個人の想像ですが、この第24話と第25話は、第1章から第3章までのすべてを内包しているのかなと思いました。この物語はフィクションですが、第3章でアントニがノヴァクに対して「君らは歴史上の人物ではない」と言ったり、アルベルトという人物を登場させたりと、視聴者の方の推測を曖昧にさせるところがおもしろいなと思いました。
──第24話で印象的だったシーンを挙げるとしたら?
石毛:アルベルトがとつとつと自分の生い立ちなどをしゃべり出したことと、しゃべった内容は印象深かったです。教会にパンを置いていく時に「まあ、いいか」と言ったところの空気感が好きです。
『チ。』のすごいところは、僕らが生きる現代よりも遥か昔として描かれているけれど、各キャラクターの心情や想いが身近に感じられるのがリアルなんですよね。その生々しさが第24話にはふんだんにあって、そこがすごく印象に残っていますし、演じていても楽しかったです。
この物語がどのような終着点に行きつくのか見届けてほしい
──ご自身が演じるアルベルト以外で、お気に入りのキャラクターを教えてください。
石毛:原作を読んだ時に好きになったのはオクジーとノヴァクで、アニメで好きになったのはシュミットです。ノヴァクは悪役ではなく、『チ。』の中で一番普通の人じゃないかなと。
──ノヴァク役の津田健次郎さんも、「ノヴァクは生活人で、拷問も当たり前の仕事としてやっていると思う」とおっしゃっていました。
石毛:そういう温度感も相まって、リアルな人間描写がされていて。最後の死に際も一番人間臭い気がしたので、好きになりました。
オクジーはあの性格に共感しやすいですし、シュミットは、演じる日野(聡)さんのお芝居も相まって、とても素敵でした。ドゥラカたちと一緒に追い詰められた時に、コインを裏表にして「これで決めていいんだな」とみんなで逃げることを選んで。そこからコインを返して、「君が逃げろ。我々が守る」と言うんですよね。最初のシュミットとドゥラカの出会いのシーンで馬車の中で信念の話をしていく中で、神に託すのではなく、自分で選択して、自分で散り際を決めて。ヒーロー然としていないからこそ、カッコよさを感じて、すごく好きになりました。
──アニメ『チ。』も残すところ、第25話のみとなりました。ここまでご覧になってくださった皆さんへメッセージをお願いします。
石毛:ここまでアニメを観てくださった方には、僕から「ここが見どころです」と紹介をする必要はもはやないと思います。ラファウから始まった『チ。』という作品の物語が、どのような終着点に行きつくのかを見届けていただきたいです。
最終章は短い話数ではありますが、視聴者の方の数だけ、感じ方が違うと思います。考察なども含めて最後まで楽しんでいただけたら幸いです。
[文・永井和幸]
作品概要

あらすじ
若き天才作家魚豊(うおと)が世に放つ、地動説を証明することに自らの信念と命を懸けた者たちの物語
15世紀のヨーロッパ某国。飛び級で大学への進学を認められた神童・ラファウ。
彼は周囲の期待に応え、当時最も重要とされていた神学を専攻すると宣言。
が、以前から熱心に打ち込んでいる天文への情熱は捨てられずにいた。
ある日、彼はフベルトという謎めいた学者と出会う。
異端思想に基づく禁忌に触れたため拷問を受け、投獄されていたというフベルト。
彼が研究していたのは、宇宙に関する衝撃的な「ある仮説」だった――。
キャスト
(C)魚豊/小学館/チ。 ―地球の運動について—製作委員会