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『シンカリオン』の“進化”の歴史に迫る! プロデューサーSP鼎談

プロデューサー陣と振り返る『シンカリオン』プロジェクトの“進化”の歴史──鈴木寿広さん(ジェイアール東日本企画)×横山拓也さん(タカラトミー)×根岸智也さん(小学館集英社プロダクション)1万字インタビュー【シリーズ10周年記念】

 

始動‼ TVアニメ『新幹線変形ロボ シンカリオン』

──2017年10月7日の「第24回 鉄道フェスティバル」でファン待望のアニメ化が発表されました。アニメ化は当初からの目標の一つだったかと思いますが、TBSさんからアニメ化のお話をいただいた時はいかがでしたか?

鈴木:実は、TBSテレビさんからお話をいただく前から我々の中でもアニメ化しようみたいな動きになっていたんですよね。

根岸:「ストーリーがあるもの」を何らかの形でやろうという話でしたね。毎年の『シンカリオン』プロジェクトの展開を考える中で話が上がって、それで下山さん(下山 健人)にお声掛けしたんじゃないかな。

アニメ化を検討するとしたら、設定をより細かく詰めないといけないし、どのようなストーリーにするかも決めないといけないですから。後に下山さんにはアニメ第1期のシリーズ構成も担当していただきましたが、彼はアニメ化するから呼ばれたのではなく、このアニメ化プロジェクトの原案を作る中で呼ばれた方だったんです。

TBSテレビさんからお話をいただく前からこういった形で何らかのアニメはやろうとしていて、我々の中で原案開発を進めていたんです。

──先に原案開発が進行している中で、TBSテレビさんからのお話と合流する形で具体的にアニメ化プロジェクトが進行していったんですね。

鈴木:三社で原案開発を進めていた段階では「いつアニメ化しよう」といった具体的な時期を決めてはいなかったので、TBSテレビさんからお話をいただいて“いつ”が見えたんです。

横山:玩具のPVを世間に発表する少し前にTBSテレビの那須田さん(那須田 淳プロデューサー)に見せたら、すごく興味を持ってくれて。ちょうどタカラトミーがTBSテレビさんと組んで朝の時間帯の番組枠で何かを始めようとしていたタイミングだったんです。

それもあって那須田さんとは先の企画について定期的にディスカッションをしていたけれど、その日にディスカッションした企画よりも「実は今こういう企画を進めているんです」とお見せした例のPVを高く評価してくださって、そこからアニメ化の熱烈なラブコールをいただくようになった流れもありましたね。

 

 

──アニメ化が正式に決定した後、皆さんのアニメとの関わりはどのように変わりましたか?

横山:我々三社は「原案チーム」としてアニメ制作側と向き合うようになりました。

根岸:ただ、僕はアニメ化においては制作会社の立場でもあるんです。原案の立場と違って、アニメーション制作の立場として納期とクオリティを担保するために調整しなくてはいけない、という立場に変わっていきました。それもあって僕はお二人からの要望をブロックすることもあったと思います。

鈴木:あとはストーリーを作っていくにあたって、色々と新幹線に関する「やって良いこと」と「やってはいけないこと」の制約があるんです。例えば「駅などの施設を破壊してはいけない」「シンカリオンが街を破壊してはいけない」とか、そういったことを共通認識にしていく作業もありましたね。

横山:だからシンカリオンは某巨大ヒーローのように敵にやられて駅舎やビルを壊すとかは絶対に駄目なんです。

鈴木:最終回の方で都庁を破壊していましたけどね(笑)。

横山:鉄道・駅に関連するものは絶対に破壊してはいけないんです。だからトンネルとかも駄目なんだよね?

鈴木:トンネルも駄目ですね。鉄道に事故があってはいけないので、それをイメージ付けるような描写は止めてほしいというJRさん側の強い要望はもらっていました。

横山:でも「街を破壊してはいけない」という制約があったからこそ「捕縛フィールド」というアイディアが出てきたんだよね。

 

 
根岸:捕縛フィールドがないと街の破壊描写を描かないといけなくなってしまうから、アニメ内の描写の制限と、制作上の都合を融合するとあれだったんでしょうね。でも、あの捕縛フィールドを作り出す技術って劇中で一番すごいでしょ。宇宙からピカーッと光を放って敵を捕縛するなんて(笑)。

鈴木:あとは「シンカリオン同士で戦わせてはいけない」とか「機体に傷を付けてはいけない」など色々なNG事項がありました。

──そういったリアリティを追求する一方で、例えばシノブが忍者だったりするファンタジックな設定にも驚かされました。リアルな新幹線とファンタジックな設定を結びつけることに対しては、特に議論はありませんでしたか?

鈴木:新幹線は日本全国の様々なエリアを走っているので、その土地ごとの特色や文化といったものをキャラクター設定に反映していると捉えていましたね。

──個人的な感想になりますが、アズサの「YouTuber」という設定も時代に先駆けていた印象です。調べてみると、放送当時の「子どもがなりたい職業ランキング」でも、やっと10位に入ってきたくらいの状況でした。

 

 
横山:仕事柄、よく子どもの様子を見ていましたが、当時の実感としてはYouTuberという職業は大分広がっていた気はしますよ。

根岸:「かんあきチャンネル」とかあったから、現実でも子どもYouTuberはいたんじゃないですかね。

横山:プラレールで言えば「がっちゃんねる」というチャンネルもありましたね。がっちゃんがプラレールで遊ぶ動画はすごく再生されていました。子ども自身のスマートフォン保有率は低かったかもしれませんが、親のスマートフォンを使ってそういったYouTubeチャンネルを見ているケースは、当時からとても多かったと思いますね。

 

苦闘‼ アニメ延長の裏話

──TVアニメ『シンカリオン』を振り返る上で欠かせないのが「放送延長」です。かなり異例のことだったと思いますが、延長の話はどれくらいのタイミングで決まったのでしょうか?

横山:詳しい時期までは覚えていないけど、結構後半だった気がします。延長が決まってからがかなり大変でしたね。

根岸:TVアニメ『シンカリオン』で一番大変だったのが延長ですね、自分は。そもそも2Dアニメパートをお願いしていた亜細亜堂さんは別作品の制作が決まっていて、延長分の対応は難しいというお話があって、スタジオも変わっていますからね。

横山:延長の話が来るまでは、普通に物語を終わらせようとしていたから、最初の予定では「シンカリオン E5はやぶさ MkⅡ」も作っていなかったし。

 

 
鈴木:1年間放送する予定で始めて、3カ月延ばします、そこから更に3カ月延ばしますみたいな話でしたよね。

根岸:地獄(笑)。

──だからキトラルザス編の終わりが1年プラス3カ月くらいの話数にあたる第64話で、残り3カ月弱がキリンとの戦いという構成になっていたんですね。

根岸:最終話の予定は決まっていて、そこに行くまでにどう延伸していくかという作業だったかもしれません。

横山:「ブラックシンカリオン 紅(くれない)」を出したのもその辺だよね。あれも元々の計画には無かったので。

 

 
鈴木:1年間放送するアニメであれば玩具を売るタイミングでもないですし。

根岸:今考えると「ブラック」で「紅」って意味が分からないですよね(笑)。

横山:そもそも玩具は1年以上前からスケジュール立てて開発しているから、新たに作るというのはかなり厳しくて。まあ「ブラックシンカリオン 紅」は色違いだから早く作れたけど(笑)。

鈴木:逆に言えばそれしかできないということだったんでしょうね。

──そう考えると「ブラックシンカリオン ナンバーズ」や「ブラックシンカリオンオーガ」といったコンパチ的なシンカリオンも苦肉の策で生まれたものですか?

 

 
鈴木:当時は、新しいデザインを発注したり、設定を変更したりする余裕はほとんどありませんでしたね。

──勝手に「大人気で放送延長だ!やったー!」みたいな雰囲気を想像していましたが、関係者の皆さんはかなり大変だったんですね。

根岸:今のアニメーション制作って数年先の作品を作ることを計画しながら進めていくものですから、急に話数が増えるというのは大変ですよね。それで2Dアニメパートの制作スタジオも途中から変わることになって、リソースもスタッフも全て移行させる必要があったので、かなり大変なことでしたね。


※編集部注:TVアニメ『シンカリオン』のアニメーション制作協力は第1話から第52話までを亜細亜堂が担当し、第53話以降はSynergySPに変わっている。


鈴木:池添監督の都合もあったから、途中から板井監督(板井寛樹)に入っていただいていますし。

──延長に次ぐ延長が決まる大人気作品になりましたが、放送当時にファンの皆さんからの反響で特に印象に残っているものはありますか?

鈴木:倉敷ヤクモが登場した後に街なかで指をさされたり、イベントに足を運んだら「あっ!」と言われたりしたこともありましたね(笑)。あとはちょうどその頃、自分の子どもが正にシンカリオン世代だったので、周囲の反響はリアルに入ってきていました。

 


※編集部注:第50話から登場する倉敷ヤクモのモデルが鈴木さんというのはファンの間で有名な話。


横山:おもちゃ売り場もそうだけど、街中で子どもたちが『シンカリオン』の話をしていたり、服を着ている子を見かけたりとかしたね。

根岸:私のところには、「グッズをください」という声を本当によくいただきました(笑)。それだけ注目度が高かったんだと思います。

──そんな苦労があったアニメ第1期ですが、ちょうど良い機会ですので皆さんが特に好きな回を教えていただけますか?

根岸:第31話「発進!! シンカリオン 500 TYPE EVA」です。とにかくEVAが好きなので。ゲストキャラや、巨大怪物体の造形、前話の次回予告から、放送版だけのBGMなど、拘りに拘ったので思い出深いです。この話だけ、深夜でも放送してもらい、大人に作品を知っていただくきっかけにもなりました。

 

 
横山:ちょっとベタかもですが、作品テーマのひとつでもある『親子の絆』を象徴しているという点で、第1話のハヤトが「お父さんの役に立ちたい…!」というセリフが好きです。

似たような理由で「劇場版」でホクトが生まれたばかりのハヤトを抱いて「久しぶりだな、ハヤト……」というシーンはシナリオ段階でうるっときていました。

鈴木:第1期も第2期も第3期も、第1話ですね。第1話はやはり特別だと思うんです。制作側の意志表示をしている部分もあると思うので。特に第1期の初回は、マルチプルタイタンパーがいきなり出てくる時点で、鉄道に真摯に向き合うことを示していると思いますし、込めているものがあると思ってます。

あとは、やっぱり第31話「発進!!シンカリオン500 TYPE EVA」です。実現させたかったことを200%叶えられた話数といいますか、企画であったと思います。

 

次の10周年へ‼ シンカリオンと新たなる出発

──ファンとしては『シンカリオン』シリーズの次の10年も非常に楽しみにしています。みなさんは次の10年でどんなことをやってみたいですか?

鈴木:どちらかというと、この10年である程度やりたいことをやってきたと思うんです。「次にやりたいことは何だろう?」というのを探している段階です。

横山:海外にも行ってみたいですね。それこそフランスのTGVなどがシンカリオンになったら面白いと思いますし、どんどん世界感が広がっていくと良いなと思っています。

根岸:僕は会社の異動でプロジェクトを途中下車しているので、外から見ている部分も含めてになりますが、『シンカリオン』はとても良い形で進んできたプロジェクトだと思っています。このプロジェクトならではのスピード感や軽やかさが好きなので、そんな人たちが次に何を考えて、何を見せてくれるのかをいちファンとして楽しみにしています。

この10周年という節目の年にも、そういった動きがあるでしょうし。今後20年、30年と続いていく中で、また面白い展開が生まれた時に、新たな『シンカリオン』の山場みたいなものが見られるのではないかと思うと、ファンの皆さんと同じようにこの先の展開が楽しみです。

──個人的には『シンカリオン』と「戦国時代」の相性の良さを感じるので『戦国シンカリオン』みたいな作品を見てみたいと夢見ています。

根岸:外伝っぽい(笑)。

鈴木:確かに戦国武将ゆかりの地には新幹線が走っているところが多いですね。

横山:(二人に向かって)企画書を見たことないっけ?

鈴木:何のですか?

横山:戦国版『シンカリオン』の案。みんな背中に旗を付けて、武者みたいな姿のシンカリオンが戦うの。

一同:(笑)。

横山:いつか機会があったら企画書をお見せしますよ。

──それでは最後に『シンカリオン』シリーズを応援してくれているファンに向けてメッセージをお願いします。

 

 
鈴木:今年で10周年を迎えましたが、これは一つの区切りでしかないと思っています。この先の『シンカリオン』がどうなっていくのかは引き続きお楽しみにしていただきつつ、まずは10周年を記念した施策を行っていくので、ぜひ応援していただけると嬉しいです。

根岸:僕もファンの皆さんと一緒に『シンカリオン』が次に何を見せてくれるのかを楽しみにしています。僕の耳にも『シンカリオン』に関する情報は自然と届いてくるので、制作チームの皆さんが世間の注目を集めるような面白いことを常に考えているんだなと感じています。僕自身も今後の展開を楽しみにしていますし、ファンの皆様にも一緒に楽しみにしていていただけたらと思います。

横山:正に「新幹線は止まらないよ!」です(笑)。これからも『シンカリオン』は走り続けたいと思っていますので、皆様も一緒にご乗車いただけたら幸いです。

 
取材・記事:岩崎航太、編集:太田友基、写真:胃ノ上心臓

参考資料

アニメイトタイムズ編集部 独自制作の『シンカリオン』TVアニメ放送開始までの非公式年表

作品概要

シンカリオン チェンジ ザ ワールド

あらすじ

かつて、突如として現れた正体不明の敵・アンノウン。

「超進化鉄道開発機構」通称「ERDA(エルダ)」は、対抗手段として新幹線が変形するロボット「シンカリオン」を開発し、脅威に備えていた。

「何かを守れる、カッコイイ人に…僕は…」

中学2年生の大成タイセイは、2年前に失踪した姉の手がかりを求めて、進開学園中等部に転入する。

その矢先、10年ぶりにアンノウンが出現。偶然にもタイセイがシンカリオン運転士として高い適性値を持つことが判明し、闘う決断を迫られることとなる。

アンノウンの正体、そして目的は何なのか…。闘いの末に見えてきた真実とは…。

少年たちの決意と成長の物語が、今、始まる―。

キャスト

大成タイセイ:石橋陽彩
フォールデン アカネ:小野賢章
九頭竜リョータ:土屋神葉
ビーナ:集貝はな
青梅マイ:本渡楓
浜カイジ:田中正彦
高輪カドミチ:小林親弘
津川アガノ:村井雄治
岩見沢ソラチ:渡辺紘
落合ミヨシ:石井未紗
川越タンゴ:斉藤次郎
大成イナ:喜多村英梨
魚虎テン:藤原夏海
五稜郭シオン:田澤茉純
最上ガンマ:石黒史剛
仮面の男:梶裕貴
海風ツクモ:畠中祐
西大路ヤマト:浦和希
工部レイジ:梶裕貴
梔子モリト:田村睦心

(C)プロジェクト シンカリオン・JR-HECWK/ERDA・TX

 

(C)プロジェクト シンカリオン・JR-HECWK/超進化研究所・TBS
(C)プロジェクト シンカリオン・JR-HECWK/超進化研究所Z・TX
(C)プロジェクト シンカリオン・JR-HECWK/ERDA・TX
(C)Project E5
(C)カラー
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