アニメ
『超かぐや姫!』山下清悟監督インタビュー

『超かぐや姫!』山下清悟監督インタビュー|「オリジナルアニメは欠点があってはならない」超ボカロ曲、超アクション、超キャラがかわいい!が盛りだくさんな作品はどのように生まれた?

 

ネットが当たり前になった今だからこそ

──また、今作全体の印象として、「今の時代を生きている人たち」から感じるリアルさがあると思いました。特に配信者の描写が現代の人々の感覚に合っているのが印象的でした。若い世代や僕ら世代にも「わかる!」と思える部分が詰まっていて、とても楽しめました。これはどのように作り上げていかれたのでしょうか?

山下:ありがとうございます。配信者やボカロの選曲については、今回の企画を進めたメンバーがコアな世代だったという影響が大きいと思います。たとえば、原案協力の弊社フジヤマは僕の7つ下でプロデューサーの桃原さんと同い年なんですが、その世代が中心になって作っているので、その感覚が作品に反映されることになりました。

僕自身はボカロ黄金期の世代より少し上に位置するんですけど、コアメンバーの方々が世代的にボカロに強い思い入れを持っているため、選曲にすごくその感覚が出ているなと思います。特に桃原さんが丁寧に進めてくれたので、そこが良い結果につながったんだと思います。

以前からVRやネット関連は細田守さんが描いている作品で魅力的に描かれました。みんなの頭の中にアニメとしてのVR空間がしっかり根付いたからこそ、下の世代の僕らの感覚でその先を描いてみるのもいいんじゃないかと思っていました。

今回の作品では、ネットに対してネガティブやポジティブといった特別な感情を持つわけではなく、あくまで「インフラとしてのネット」を描いているんです。つまり、身近なものであり、生活の一部というフラットな捉え方を意識して作りました。そこが今の若い世代や僕ら世代にとって自然に感じられる部分かもしれません。

なので、あまり題材に対してメッセージ性を持たせているわけではないんです。例えば、「VRから現実に帰れ」といった形のテーマは一切ありません。フィジカルなネタとして、仮想空間では温度や味覚を感じれないことへの言及はされますが、ネットの悪意やその類のものはまったくテーマとして含まれていません。この点も「今風」と言われる部分かもしれませんね。

良くも悪くもネットに対する強い意識はなく、当たり前にそこにあるものとして描いているということです。

──なるほど、ネットをフラットに捉えた作品ということですね。それに加えて、物語が極端に暗くならない点も今っぽいと感じました。

山下:それはめちゃくちゃ意識して作った部分なので、本当に嬉しいです。最初に企画を出した際にはあまり通らなかった話もしたと思いますが、それは内容が暗すぎるという要因があったんですね。ただ、それは僕自身にとっても良くないと感じていた部分でした。とはいえ、人間の心理や感情に深く踏み込もうとするとどうしても暗い方向に寄ってしまう。そこを極限まで回避しながらも、深いテーマはちゃんと描きたいという思いから、企画を練り上げていきました。

例えば、かぐやと酒寄彩葉の関係性を描く際も、通常なら喧嘩させる流れにすると思うんです。でもそれを絶対にやりたくなかったんです。彩葉はかぐやに対して怒ることはあっても、突き放したり悪意を持って接したりすることはしない。それが彩葉というキャラクターの本質であり、物語の大切な要素だと思っていました。

その考えが最も顕著に現れているのは、花火大会で彩葉が自分の想いを告白するシーンですね。かぐやは「私が彩葉の大切にしてるものに無神経に踏み込んだのだから、怒ってよかったのに」と言うのですが、彩葉は「そうやって突き放したくなかった」という意味を伝えます。そこでかぐやもそれを理解して彩葉を尊重する。あのやり取りは、お互いにとってお互いがかけがえのない存在になった瞬間として描いています。あれこそが、この作品のすべてだと思っています。

簡単に喧嘩したり突き放したりしない物語。それが「今風」なところではないかなと思います。

──だからこそ、新しいタイプの物語に感じました。それに、キャラクター造形も非常に印象的でした。特に早見沙織さんが演じた月見ヤチヨが歌う場面が多くて、ファン的にも嬉しかったのではないかなと。

山下:早見さんが演じたヤチヨは、作中の仮想空間「ツクヨミ」のトップライバーであり、歌姫という設定です。そのため劇中で歌うシーンは必然的に組み込まれることになりました。ただ、その歌をここまで全面的に推す形になったのは、制作戦略の面でも意図的だった部分があります。

先ほど少し触れましたが、場外でも注目される仕掛けが必要と考えたんです。例えば、劇中のキャラクターが本当に配信者として活動するというアイデアもあったのですが、これは難しいだろうという話になり、結果として「歌ってみた」形式に残したんですね。本編で歌うシーンを作ることと外部での展開を組み合わせることで注目を集める仕掛けを狙いました。

劇中では歌うシーンについて「そんなに歌っている印象はないかも」と言われることもありますが、実際には歌ってみたの曲も含めるとかなりの数の楽曲を歌っています。歌姫という設定で描いていますので、ここはテーマの中心に位置している部分ですね。

──ライブシーンも凄まじかったです。

山下:ライブシーンについても、とにかくこだわって作りました。ディレクターには凄腕の中山直哉さんに全部お任せして進めてもらいました。本当に僕は口を挟まず、「まじで何もやってない」という感じだったんですが(笑)。その話はぜひ中山さんに聞いていただきたいです。

とはいえ、通常のライブとは少し違う演出にしたいという話はしていました。一般的なライブシーンだと映画の中で音源が流れて、それを観客がただ見ているというスタイルになりがちですよね。でも今回は違います。キャラクターがライブ中も観客とコミュニケーションを取っているように感じられるような演出を求めました。また、ライブシーンのキャラクターが、これまでの物語と地続きで自然に繋がっているように見せることも意識していました。

さらに、かぐやと彩葉とヤチヨのコラボライブのシーンに関しては、「プロの技を見せようという場じゃない」ということを強調しました。歌唱テクや演奏テクを見せるのではなく、キャラクター同士の仲が良い部分をステージ上で見せる。そして観客には「尊い」と思わせたい! という狙いがありました(笑)。その点はすごく意識して作ったところです。

通常のライブの派手で豪華な演出ではなく、キャラクターにフォーカスを当てて、関係性がしっかり見える構成にしてほしいという話をしながら、中山さんに指揮棒をふるっていただきました。

──歌唱シーンも確かに多いですよね。映画の尺が伸びた理由としても歌唱シーンや戦闘シーンのボリュームが大きいと言えると思います。

山下:その通りですね。歌唱シーンと戦闘シーンだけで30分くらいは余裕で使っています。それに戦闘シーンは自分の得意分野でもありますから、ここはしっかり入れたかったんです。だから、全部しっかり詰め込みました(笑)。

でも次回もこれを求められると……正直キツいですね(笑)。さすがに同じことはできないので、そこはなんとかしていくしかありません。

 

オリジナルアニメの制作では、欠点があってはならない

──ところで監督のSNSを拝見していると、本当に楽しそうにアニメを作っている印象を受けます。今作を作りながら特に楽しかったことや印象的だったエピソードがあれば教えてください。

山下:やっぱり音楽ですね。作中の音楽を聞いていると、入り込んでしまって、会社で声を上げて泣いてしまうことが何十回もありました(笑)。本当に作業できなくなるんですよ。それぐらい、この作品が素晴らしいと思えてしまったんです。

周りに人がいるのに泣いてしまう自分も怖いだろうなと思うんですけど、それだけこの作品が好きだということですね。そういう意味で楽しいと感じました。人生でここまで感情が動くことなんて、なかなかないことだと思います。

もちろん、仕上がりのフィードバックを受け取る瞬間も楽しいですし、曲が届いた時なんかもそうです。ただ、チェック作業の時はどうしても張り詰めた感覚になるので、リラックスして音楽を聴いている時のほうが楽しいですね。

途中からは泣いていても周囲から何も言われなくなって、「あ、また泣いてるね」となる感じでした。頑張って我慢してもダメでした(笑)。特に「瞬間、シンフォニー。」や「Reply」は、もう何度も泣きました。

でもやっぱり、作業中は「直さないといけない」という気持ちが常にあって、音楽を聴きながらも、「何か改善できるんじゃないか」とつい考えてしまうんですよね。クリエイターの意識として、「まだ直せる」っていう感覚が拷問のように働いている状態です。

修正ができる権利がある限り、それを進言して、手を動かして改善しなければならない。その状態って、気を抜けないし、すごくキツいものだと思います。

作品が完成した後になって、ようやく音楽を純粋に楽しめるようになって。最近は別の仕事をしながら音楽を聴いて癒されることが増えました。

──今回初めて長編アニメの監督をされてみて、何か新しい気づきはありましたか?

山下:気づきだらけでしたね。まず専門的な話になりますが、カッティングやダビングを一回でfixするのがたいへん難しく、自分は各編集工程を2回はやりたいと思ってしまいました。人に頼まず自分の手元で編集するということができればいいのかもしれませんが、ある程度色がついてダビング作業をする時にやはり尺を伸ばしたいとかどうしてもでてくるので、やはりダビングは二回やらないとクオリティを上げていくのは難しいような気が……正直しますね。ほかの監督さんに、後悔がないのかも聞いてみたくなりました(笑)
あとは、反響をちゃんと聞かないとなんとも言えない部分もありますが、映画を短くすることもできるし、長くすることもできる。そういう意味ではシーンの取捨選択って本当にさじ加減だなと思います。「ここは絶対必要だ」と感じるシーンでも、「いや、別に切れるかもな」って悩む瞬間がある。その結果、「映像って何のためにあるんだろう」という気分になることも何度かありました。

僕の場合、特にキャラクターを描きたいという思いが軸にあったので、「映像は忘れてもいいからキャラを頭に植え付けたい」という気持ちで作っていました。その点では映像制作に向いていないのかもしれないなって少し思うこともあります。ただ、強みが映像に偏っている以上、やるしかないんですけどね(笑)。

作中のゲームシーンやノベライズ、漫画の監修など、他の制作分野も楽しかったですし、シナリオを書いている時間も楽しめました。でも映像演出が、自分の能力のほんの一端に過ぎないんだなということを改めて感じた部分もありました。「これなら得意だな」と思う部分と、「ここはあまり得意じゃないな」と思う部分がしっかり見えてきました。

気づきに関しては本当にたくさんあったので、忘れてしまった部分もあります(笑)。監督ってやろうと思えばどこまでも関われる仕事なので、ある意味地獄ですよね。

──監督の取り組み方は千差万別ですよね。その点で他の監督がどうしているのか気になることもありますか?

山下:ありますね。自分のやり方しか基本的には知らない状態なので、他の方がどう進めているか知りたいという気持ちは強いです。

自分で長編を作ってみてもう一つわかったことは、映像媒体は、キャラクターの状況やエピソードを伝えるのに不向きであるということです。漫画だったら1ページのあらすじや状況説明で終わってしまうことが、映画だと30分とか平気でかかってしまうので。僕のように漫画家に近い欲求を持っているアニメーション監督は、何か別の手段を講じないといけないなと思ったりもしました。そういう意味で、ここにきても僕はとても異端なんですよね。同じ悩みを持つ監督と話してみたいです。

──作品を通じて多くの発見があったんですね。これからの作品にもその経験が活かされそうですね。

山下:やっぱり観てくださる方々にどうやったら楽しんでもらえるかを考えるのが、一番大事だと思っています。作中のギミックについても、どうやって伝えるかをすごく意識していました。

リテラシーのラインを視聴者にどれくらい要求するかは、難しい問題ですね。極力シンプルにしたつもりですが、こうした部分で観客が少し離れてしまう要因になったりすると、やっぱりもっとシンプルにわかりやすく伝えたほうが良かったのかなと思うことがあります。

ただ、今回はそうした要素をできる限り取っ払った上で、ビジュアルの強さやキャラクターの良さを際立たせることで、最後まできちんと観てもらえるようにしたつもりです。それが今回の狙いでした。

もしそのビジュアルやキャラクターの良さを感じてもらえなかったら、この作品は成立しないと思っていました。だから僕は単純にストーリーが良いだけとか、絵が良いだけでは意味がないと思っています。ある程度全てがバランス良く揃っていないと、現代ではヒットは難しいと感じています。特にオリジナルアニメの制作では、目に見える欠点があってはならないと強く思います。

 
[インタビュー/石橋悠]

 

作品情報

超かぐや姫!

あらすじ

夢と希望の集まる仮想空間。
少女たちの出会い、そして別れのためのステージが、幕を開ける――

今より少しだけ先の未来。
都内の進学校に通う 17 歳の女子高生・酒寄彩葉は、バイトと学業の両立に励む超絶多忙な日々を送っていた。
日々の癒やしは、インターネット上の仮想空間の管理人兼大人気ライバー(配信者)・月見ヤチヨの配信を見ること。
自分の分身を作り誰もが自由に創作活動を行うで、彩葉はヤチヨの推し活をしつつ、バトルゲームで細々とお小遣い稼ぎをしていた。

そんなある日の帰り道、彩葉は七色に光り輝くゲーミング電柱を見つける。
中から出てきたのは、なんとも可愛らしい赤ちゃん。
放っておけず連れ帰ると、赤ちゃんはみるみるうちに大きくなり、彩葉と同い年ぐらいの女の子に。
「あなた、もしやかぐや姫なの?」

大きくなったかぐや姫はわがまま放題。
かぐやのお願い(わがまま)で彩葉は、ツクヨミでのライバー活動を手伝うことに。
彩葉がプロデューサーとして音楽を作り、かぐやがライバーとして歌うことで、二人は少しずつ打ち解けていく。
かぐやを月へと連れ戻す不吉な影が、すぐそこまで迫っているとも知らずに――
これは、まだ誰も見たことがない「かぐや姫」の物語。

キャスト

かぐや:夏吉ゆうこ
酒寄彩葉:永瀬アンナ
月見ヤチヨ:早見沙織
帝アキラ:入野自由
駒沢雷:内田雄馬
駒沢乃依:松岡禎丞
綾紬芦花:青山吉能
諌山真実:小原好美
FUSHI:釘宮理恵
忠犬オタ公:ファイルーズあい
乙事照琴:花江夏樹

(C)コロリド・ツインエンジンパートナーズ

 

おすすめタグ
あわせて読みたい

関連商品

おすすめ特集

今期アニメ曜日別一覧
2026年冬アニメ一覧 1月放送開始
2026年春アニメ一覧 4月放送開始
2026年夏アニメ一覧 7月放送開始
2025年秋アニメ一覧 10月放送開始
2026冬アニメ何観る
2026冬アニメ最速放送日
2026冬アニメも声優で観る!
アニメ化決定一覧
声優さんお誕生日記念みんなの考える代表作を紹介!
平成アニメランキング