
『劇場版モノノ怪 第二章 火鼠』薬売り役・神谷浩史さんインタビュー|「薬売りは煙みたいな存在ですけど、それに触れるようにするのが大切だと思っています」
慣習に縛られた年長者と行動理由を求める若者。その構図はまるで「現代社会」
ーー第二章のメインキャラクターとして描かれているフキとボタンの印象をお聞かせください。
神谷:最初は「女って怖いな」と思いました(笑)。両方に言えることですが、自分の人生を大切にしながら、そうではない大儀(大事なこと)を見て行動できる冷静な人たちです。もしかしたら感情に任せて動いているように見えるかもしれないけど、そうではない部分もある。非常に頭が良くて、自分の信念に対して、忠実に行動できるタイプだと思います。最終的には好感が持てるキャラクターになりました。
ーー一見、対照的な二人に見えますが、自分が大切にしているものへの想いや信念の強さは共通しているなと。親や家系に抗えないところも。
神谷:どうしても人間は現状維持や古い習慣に則った行動を重んじるところがありますけど、その理由について考えることは少ないですよね。年齢を重ねた人はその年月の中で習慣の大切さを会得できているかもしれませんが、若い人は、目上の人や親に「こうするように」と言われた時、納得できる理由が欲しいはず。
「なぜ?」と疑問が残る故に、フキもボタンも突き動かされている気がします。納得できる理由や意味が必要な若い人と、理由や意味を考えることを失ってしまったり、説明することを放棄してしまった古い人の構図は観ていて歯がゆさを感じつつ、「現代にも通ずる縮図だな」と思いました。
ーーフキ役の日笠陽子さん、ボタン役の戸松遥さんのお芝居はいかがでしたか?
神谷:こんなことを言ったら老害だと言われてしまうかもしれませんが、戸松ちゃんは彼女が17歳でデビューして、制服姿で現場に通っていた頃から知っています。元々器用というか……もしかしたら不器用だったから感情が弾ける役の方がやりやすかったのかもしれないですけど、キャリアと共にそうではないものも表現できるようになった。今回も見事な存在感を見せてくれましたし、「やっぱり戸松ちゃんはすごいな」と思わされました。
日笠は元々上手で、何でもできる人です。本人はよくわからない、おせっかいな性格だけど(笑)。それでも、ちゃんとできているから不思議なバランスで成り立っている人だと思います。現場にいると非常に頼もしいです。
ーー戸松さんと日笠さんはほぼキャリアが一緒で、仲も良いそうです。
神谷:そうなんですね。というか日笠と仲が良くない人なんて、この世にいないでしょう。戸松ちゃんもそうですけど、基本的に「陽」の人たちなので、相性がいいんじゃないでしょうか。
自分が傷つくことも厭わない、薬売りと神谷さんに共通するもの
ーー神谷さんの中で、印象に残っているキャラクターやシーンはありますか?
神谷:あくまで薬売りはメインで活躍するのではなく、問題に対してのみ行動する人です。大奥に息づいている人たちが起こす問題を丁寧に描いてこそ、薬売りが活躍する。なので、第二章に関しても薬売り以外のキャラクターの見せ場が強く印象に残っています。特に広敷番の坂下(CV.細見大輔)は非常にいい役ですよね。薬売りという得体の知れない存在に対して、みんな彼のことを理解はしないけども助けだけは求めるという中で、坂下だけはある程度理解しようとしてくれている。好意的とも違うのかもしれないけども、協力的なところを見せてくれたりするので、登場人物の中だと変わった存在として映りますよね。今回の物語で多少彼の過去が描かれていますけど、大奥に何かを縛られている人ではあるんだと思います。
あとは、第二章から登場した老中たちも印象的でした。やっぱりベテランの声優さんたちってすごいですよね。もちろん若い頃からすごかったですが、当然皆さん若い頃だったら薬売りを演じている可能性のある方たちなわけです。そんな方々が歳を重ねて味のあるジジイの役をやるっていうのは、たまらないですよね。うまく説明できないですけれども、「楽しそうに演じてらっしゃるな」と。自分もベテランの年齢感に達した時に、こういう味のあるジジイの役が果たしてできるのだろうかと。すごく尊敬しますし、うらやましいです。
ーー第二章の公開を楽しみにしている方、そして『劇場版モノノ怪』をこれから初めてご覧になる方にメッセージをお願いします。
神谷:第一章からの続きものなので少しハードル高めに感じるかもしれないですが、第二章から観ていただいても全く問題ないです。ただ、興味があったら絶対に劇場で観てください。間違いないです、これは。第一章の時もお伝えしましたけど、『劇場版モノノ怪』はトリップムービーみたいなものなので、映像の洪水に身を任せながら観ていただきたいです。第二章も劇場という、その作品のためだけの贅沢な空間で観るにふさわしい作品になっているので、楽しみにしていてください。
ーー気が早いかもしれませんが、第二章のあとには、いよいよ完結編となる第三章も控えているかと思います。
神谷:第三章ですか? 知ったこっちゃないです(笑)。台本をもらってアフレコする段階になったら考えますけど、とりあえず目の前にあることをただ一生懸命やるのが僕の仕事なので、先のことは考えていません。というのも、今回の薬売りの特徴として、「傷つきながらも能動的に目の前で困っている人を助ける性格」と中村総監督に言われているからです。
先々のことを見越してはいるけど、基本的には目の前で起きた事象を片付けていくだけ。そのうえで自分が傷つくことも厭わないという部分に僕自身も共感できました。第三章までやることを考えたら、その過程や余計なことを考えてしまって、演じるうえでは邪魔になってしまいます。プロット的なものはぼんやりと聞いていますが、ただ「大変そうだな」と思うだけで、「スタッフさん、頑張ってくださいね」みたいな感じです。今のところは。
[インタビュー/永井和幸 撮影/MoA]
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『劇場版モノノ怪 第二章 火鼠』作品情報
3月14日(金)全国ロードショー
あらすじ
錯綜する思惑、やがて暴走する“火消し”の策略……。時を同じくして、突如として人が燃え上がり、消し炭と化す人体発火事件が連続して発生。モノノ怪の仕業とにらんだ薬売りは事態を収めようとするが、群れで行動し、神出鬼没の怪異に手を焼く。この怪異の正体は「火鼠」の子供たちで、彼らはただ人を襲うだけではなく同時に母を探しているようだが、本体である火鼠の母親はなかなか姿を見せない。火鼠は何故、赤子を狙うものたちを襲うのか。自らを燃してもなお止まらぬ火鼠の情念がもたらす悲劇とは。
薬売りはその謎を解き、モノノ怪を斬るための三様【形・真・理】を突き止めるべく大奥に巣食う闇へと足を踏み入れていく。
キャスト
(C)ツインエンジン







































