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- 逆井マリ
- 神奈川県横浜市出身。音楽フリーペーパー編集部を経て、フリーのライターとしてインタビュー等の執筆を手掛ける。

──ところでレコーディングの日もクリエイター陣の皆さんはいらっしゃったのでしょうか?
北川:いらっしゃいました。雪之丞先生も、奥村愛子さんも、高木さんも。関係者が軒並み揃ってる状況でした(笑)。ちょっとドキドキしてましたね。でも皆さん、めちゃくちゃあったかいんですよね。
もちろん、頑張るつもりではいたんですけど……「もっと面白がっていかないと、この曲は歌えないんだった! 忘れてた!」ってレコーディングの前に気付かされたんですよね。
私は初めてオープニング主題歌を担当した作品だったので、当時はとにかく頑張って歌った記憶があって……。無印も、「Part2」も。次の日、腹筋が筋肉痛になった記憶があります。脳も体も全部フル稼働で歌い切った感覚がすごくあって……「歌いきった! あぁ、楽しかった!」って。
今回『MIRAI DAYS』のオープニングを歌うにあたって「どう歌えばいいんだろう?」ってすごく考えていたんです。でも、8年前に歌っていたのは当時の私で、そこから年齢を重ねた今の私がいる。きっと、プリキュアのみんなも“続き”ではあるけれど、大人になった彼女たちがそのまま等身大でいるんだろうなと思って……。「じゃあ、私もある程度等身大で歌えばいいんだな」って気付いて、そこで力が抜けたんです。
だからこそ、私自身も「面白いことは全力で楽しんじゃおう!」と余裕を持ってレコーディングに臨めました。新感覚でしたね。「そっか、等身大の北川でいいんだ」って。私が面白がって歌うことで、『まほプリ』のオープニングが“そのまま”続いていくんだ、って。
──それが顕著に現れているなと思ったのが、〈人はね...みんな違う愛し方や痛みも違うその違いが“素敵”だって今なら言える〉でした。本当に今だからこそ言えるんだなと感じるような、軽やかさや積み重ねてきた経験も感じました。
北川:あぁ、そうかもしれないですね。中学生だったみらいたちが歩んできた軌跡、TVシリーズ全50話を見終わった上で、改めてレコーディングできるって、なかなかない経験だと思うんです。映画の挿入歌やスペシャル楽曲はあっても、その作品の主題歌を“新しく”歌うっていうのは、あまりないことだし、レアだと思っていて。
でも、彼女たちにとっては“日常”で、“当たり前”。〈人はね...みんな違う〉っていう歌詞が、より深みを持つんだろうなって。その積み重ねがあるからこそ、今回の歌い方になったのかなと思いますね。
──コーラスも温かみがあるように感じました。
北川:このメロディーラインが、私の中に9年間ずっとあり続けてきたからこそ、自然に染みついていたのかもしれません。無理に作り込む必要もなく、自然と出てくるものがあったのかもしれないなって。なんというか……もう、『プリキュア』が胸の中に住んでるんですよ(笑)。それは「Dokkin」にも言えることで。
だから、コーラスもより温かい気持ちで歌えたのかもしれないし、ずっと大切にしていたものを「こちらですね」って取り出すような感覚で、声に乗せられたのかなって思いました。実は改めてレコーディング前に見直したんです、『まほプリ』を。その上で今回の歌詞を読むといろいろ考えさせられるものがあって。「未来へ進む物語」だからこそ、よりいろいろなことを想像させてくれる歌詞になっているなと感じていました。今までも「届け!」って思いながら歌っていたけれど……今回は、あたたかいものを「提示する」ような歌になっているイメージもあって。それは、イントロから始まるアレンジにも表れていると思います。
無印や「Part2」は、ジェットコースターみたいに「ついておいで!」って走り続ける曲だったけど、今回の曲はみんなを巻き込んで「一緒に歌おう!」という感覚があって。
──大人ならではの余裕がある。でも〈なんてね!オトナぶって噴き出しちゃう コドモでござる〉。ニクいなあって。
北川:そう! 大人が聞いて「ニクいな」って思うって、すごいことですよね。言葉の面白みはいろいろなところで散りばめられていますけど、あの歌詞を読んだときにすごいなって。「実際にこういうことってあるよな」とも思ったんですよね。
真面目なことを本心で喋っていても、「あ、真面目に喋っちゃったな、てへ」みたいなことって、あるじゃないですか(笑)。実感を込めて歌えるような歌詞として取り揃えているのが、すごいなって思いました。
──雪之丞先生から、歌うときにアドバイスはありましたか?
北川:ポイントポイントで「もっとここ、いけるんじゃない?」って感じでいただくことがあります。〈パート3よ!〉の部分は、私が「もっとやりたい!」って思ってしまって、「もう一回やらせてください!」って何度も歌わせてもらったんです。
レコーディング後、ラフミックスをみんなで聴いたときに、〈パート3よ!〉って流れた瞬間、隣にいた雪之丞先生が「最高だよ!」って言ってくださったのが、めちゃくちゃ嬉しくて。一生忘れないです!
あと、〈ブタ踊ればトントン拍子〉のあとに「ん?」って言葉が入るんですけども。
──あれ、いいですよね!
北川:実はその場で決まったんですよ。ブタにかけているので「とんとん拍子」という本来の意味とは違うニュアンスで使われているんですよね。それで「ここ、自分で言ってみたけど、“ん?”ってなってる感じを出してみようか?」ってその場で提案があって。
それで「ん?」の入れ方をいろいろ試したんですよ。時には妙に渋い「ん?」が出てきたり(笑)。最終的に、あの言い方に落ち着いたんです。その場でどんどんアイデアが生まれて、思いついたものをどんどん入れていく作業だったので、それがすごく面白くて。本当にクリエイティブな現場でしたね。なかなか、こういう経験はないなって思いました。
──北川さんは楽曲や作品に関わる方たちの気持ちを汲み取ることも、楽曲を歌われる上でいつも大事にされていますが、今回の楽曲制作に関わる皆さんの“愛”を、どのように感じましたか?
北川:いや、もう……すごく感じてはいたものの……『MIRAI DAYS』を制作すると決まったときに、布陣もあの時と一緒で「『まほプリ』らしさは絶対に忘れないぞ! 大人になっても絶対忘れないぞ!」っていう熱量を、めちゃくちゃ感じました。キャストの皆さんも、音楽スタッフの皆さんも、当時と同じメンバーが集まって。しかも「Part3」はアレンジも高木さん、『MIRAI DAYS』の劇伴も高木さん……。それってすごいことだと思うんですよね。「時を経てもまた同じメンバーで集まりたいよね!」「集まりました〜!」っていう。それって、第 49 話「さよなら魔法つかい!奇跡の魔法よ、もう一度!」でみらいが「キュアップ・ラパパ! もう一度みんなに会いたい!」と願ったことと完全にリンクしているじゃない!ってすごく感動しました。それって愛でしかなくて。
そして、みらいたちは5年、我々は8年、9年の時を経て、またこうして集まっている。俯瞰で見てもすごいことだなって思いました。「『プリキュア』ってすっごいなあ!」って。そこにまた、私がその中のひとりとしていられることが、本当にありがたいです。ものすごく、ものすごく感謝しています。
『まほプリ』のオープニングを歌わせてもらってから、ずっといろんな作品に関わらせてもらってきました。主題歌や挿入歌、ボーカルアルバム、映画の楽曲……。でも、また『まほプリ』で、オープニング主題歌を北川理恵として歌わせてもらえるなんて……すごく嬉しいし、やっぱり震えるくらい怖くもありました。
でも成長した自分で『まほプリ』に携わりたいなと思いました。みらいたちもプリキュアとしてみんなで過ごした過去の自分たちがあるからこそ、今も日々頑張ってる。私もいろいろな場所で積んできた経験や力をすべて注ごうって思いました。そういう気持ちに自然となれる環境なのは、本当にありがたかったです。
──北川さん自身、改めて原点を振り返ることも多かったのではないでしょうか。
北川:そうですね。その前の『Go!プリンセスプリキュア』では、お姫様モチーフの優雅な雰囲気だったので、そこからガラッと変わる『まほプリ』のテーマに対して、すごくハードルが高く感じて……。
でも、いざ歌ったときに、皆さんが「いい曲!」って言ってくれて。もちろん作詞・作曲・編曲のクリエイターの皆さんの力の上に、私が乗っかっているんですけど……それでも「この歌がみんなに喜んでもらえた!」っていうのが、私にとってはものすごく嬉しくて。自分自身にとっても大きな成功体験だったんですよね。
「また新しい扉が開けた!」って思えた瞬間だったし、ずっと自信になっているんです。
だからこそ、今回も、新しい面白みや発見に出会いたい、皆さんに喜んでもらいたい!っていう気持ちがすごく強くて。でもそれってレコーディング中にはわからなくて。「良かった喜んでもらえた」と実感できたのはわんぷりライブで。「これがどう受け入れられるんだろう?」ってドキドキしながら挑んでいました。それが、当時無印を歌っていたときとリンクしていました。
──このインタビューが公開される頃にはもう2025年になっています。せっかくなので、表現者としての展望についてもうかがいたいです。
北川:最近、自分が新しいことにチャレンジできていないかもしれないな、って思うことがあって。怖がらずに、いろんな場所で、新しい出会いを大切にしたいなと思っています。やっぱり「出会いはミラクルでマジカル!」なんですよね。
だからこそ、一歩踏み出したいなって。新しいことに挑戦するのは少し怖いかもしれないけど、その一歩を意識的に続けていきたいなって思います。自分自身でも、「こんな一面があったのか!」って発見する瞬間がすごく嬉しくて。それって、ある種の“魔法”みたいなものだなって思うんですよ。それを自分自身で生み出せるようになりたいし、もっともっと楽しんでいきたいなって思っています。
──どんなときも〈メゲずに ポーズ決めて〉。
北川:本当にそうですね! ああ、本当に良い歌詞ですね(笑)。ずっと心に染み渡っています。
[取材・文/逆井マリ]

神奈川県横浜市出身。既婚、一児の母。音楽フリーペーパー編集部を経て、フリーのライターとしてインタビュー等の執筆を手掛ける。パンクからアニソン、2.5次元舞台、ゲーム、グルメ、教育まで、ジャンル問わず、自分の“好き”を必死に追いかけ中。はじめてのめり込んだアニメは『楽しいムーミン一家』。インタビューでリアルな心情や生き方を聞くことが好き。

【発売日】2025年2月5日
【価格】
CD+DVD:3,300円(税込)
通常盤:1,980円(税込)
≪収録内容≫
【CD】
M01.Dokkin◇魔法つかいプリキュア!!Part3~MIRAI DAYS~
歌:北川理恵 作詞:森雪之丞 作曲:奥村愛子 編曲:高木 洋
M02.キセキラリンク
歌:キュアミラクル(CV:高橋李依)・キュアマジカル(CV:堀江由衣)・キュアフェリーチェ(CV:早見沙織) 作詞:六ツ見純代 作曲・編曲:高木 洋
M03.Dokkin◇魔法つかいプリキュア!!Part3~MIRAI DAYS~(オリジナル・メロディ・カラオケ)
M04.キセキラリンク(オリジナル・メロディ・カラオケ)
M05.Dokkin◇魔法つかいプリキュア!!Part3~MIRAI DAYS~(TVサイズ)
M06.キセキラリンク(TVサイズ)
【DVD】※CD+DVDのみ
「オープニング主題歌・エンディング主題歌 ノンテロップ映像」を収録。