
あえて“普通”を意識せず臨んだ第8話の収録。箱山の言葉があったからこそ、冬賀の笑顔を引き出すことができた|『花は咲く、修羅の如く』冬賀萩大役・千葉翔也さんインタビュー【連載第6回】
冬賀の笑顔を引き出してくれた、箱山の言葉
──第8話は“冬賀回”でした。動画制作のドラマの海辺のシーンで流す音楽をどうするのかというところで、納得のいかない冬賀がギリギリまで粘るというエピソードでしたね。
千葉:この回は、箱山くんとの公園での掛け合いが印象的でした。ここで冬賀が初めて、「何を正義にしているのか」を話していて。オーディションのときに、ここの描写があったんですが、それを見て僕は、「この人のこと、わかるな」って思ったんです。
そこをいざ演じるとなると、肩に力が入りそうと思ったんですが、第8話に至るまで、ここを前提にやっていたところがあって⋯⋯。つまり、それまでずっと彼が意識していたことを、ここでたまたま初めて口に出した、という形だったので、自分としては思っていたよりもあっさり演じてしまった印象がありました(笑)。
それでも、自分の想像より良かったなぁって思えたのは、箱山くんがいたからこそなんだと思います。箱山くんがその一連のシーンの最後に「信じて待っててもいい?」って言ってくれるんですが、その本番テイクがすごく良かったので、それに対して本当に素直に、嬉しいなぁって気持ちになったんです。人からポジティブな気持ちを向けられたなっていうのが、坂(泰斗)くんのお芝居から伝わってきて嬉しくなりました。あと、冬賀の笑顔って、すごく難しいんですよ。
──「(にっこりと)勿論!」のところですね。
千葉:どういう声で喜んだら、この人にとって劇的な変化があるということになるんだろうっていうのが全然想像できなかったんですが、箱山くんの掛けてくれた言葉のおかげで、「勿論!」って笑顔で返せたんです。
そこから動画が完成して、吉祥寺先生に褒められたあとの箱山くんとの会話での、「べ、別にボクは普通に手伝っただけだし」の本番テイクもすごく良くて! 冬賀としては、編集作業で先輩を振り回してしまった気持ちがあったけれど、本当にこの人は何とも思っていなかったんだな、みたいなところが出ていて、気持ち良く喜べたので、そこもすごく印象的でした。
──その箱山の言葉に対して「なら、普通も悪くないッスね」と、“普通”を受け入れるんですよね。彼は“普通”だから、BGMで得意なピアノの曲を入れるのを避けてきたわけなので。
千葉:これまでの演出的に、“普通”というワードがキーになっているんですが、それを強調せずに描きたいんだなということはわかっていたので、自分にとっての“普通”について、何も考えないようにしながら演じました。なので、箱山くんとの会話みたいに、目先のもので感情を動かしながら演じられたことが、すごく良かったんです。
あと、そのピアノの曲を、アフレコ前に見るVTRの段階から入れてくださっていて。「彼の行き着いたピアノの曲ってこれなんだ!」とわかった上で演じられたので、それも気持ちが良かったです。
── 一連のシーンは、すごく良い流れになっていましたよね。
千葉:しかも、この最後のシーンって、微妙に原作と順番を変えているんですよね。原作だと箱山くんとの会話のあとに吉祥寺先生に映像を褒められるんですが、アニメだと「なら、普通も悪くないッスね」を後ろに持ってきて、それで締めているのがすごく良かったです。そういう細かいこだわりのもとに考えられた構成になっているのが、アニメ『花修羅』なんですよね。
──30分で見せる上で、すごく練られた構成になっていますよね。第8話は、自分の作ったものを勝手に変えられることに怒ったり、クリエイターあるある的なものもあった回だと思いましたが、共感したところはありますか?
千葉:自分が良いと思っていないものを人に褒められたときに、全然喜べないというのはすごくわかりましたね。冬賀って、“普通”を嫌がっているけれど、自分を卑下する感じがないところが独特だと思うんです。僕がこういう思考になるときって、「これだと埋もれてしまう」とか、「価値がない」ってネガティブな思考と天秤にかけた上での「普通じゃなくしよう」なんです。でも彼の場合は、「オリジナリティを探したいから“普通”は嫌だ」という思考なので、すごくポジティブな感じがしました。
──そこは一旦完成した動画を、みんなには良いと言われているけど、冬賀だけ全然納得がいっていないというシーンでした。
千葉:ここでは、自分が良いと思っていないのに褒められたときのイラつきというのがあると思うんですが、アニメでは、感情通りにやらせてもらっているので、めちゃめちゃイライラしている感じを出して良い、というのが意外であり、やっていて楽しかったところです。あんなに急に怒りだしたら周りから驚かれそうですが、本人的に大事なところなので、コメディで済まさないというのは良かったと思います。
──確かに、原作ではポップな見せ方でしたね。ここも1本30分の中で見せるアニメならではの演出でした。
藤寺さんの「上向きになる芝居」を聴いて、花奈に対する印象が変化
──第8話まで収録してきて、花奈を演じる藤寺さんのお芝居はいかがでしたか?
千葉:花奈ちゃんのキャラクターの印象は、アニメで大きく変わりました。原作を読んでいるときは、もっと陰気な子だと思っていたんですが、藤寺さんの朗読の説得力、瑞希との掛け合いの中で立ち直っていくお芝居を見て、すごくいいなと思って。ネガティブに入りそうなところからポジティブに切り替えたり、上向きになっていく瞬間の芝居がより良くて、「暗い子ではないんだ!」というのが意外でした。
それでいて、島に住んでいて、周りに同級生がいなかったり、本土の高校生の空気とは少し違う感じも出ていたので、「なるほど! 花奈ちゃんってこういう人物だったのか!」っていう気持ちになりました。
お芝居自体は、毎週進化している感じがします。発声とか滑舌といった技術的な部分ではなく、毎回予想外なところに花奈ちゃんがいて、そこに毎回戸惑えている感じがするというか⋯⋯。
第8話も、修羅の朗読を見て、ほかのキャラクターよりも深い部分で悔しがっているというのが、僕の脳内再生にはない引き出しのお芝居でした。「これが本音だったんだろうな」っていう、意外なのに、ちゃんと説得力があるものになっていて。
──あの悔しがっているシーンは、すごく良かったです。
千葉:ここの「もっと上手くなりたいです!」という言葉って、捉え方によっては自己否定にも聞こえるワードですが、花奈ちゃんが持っている無意識の自信とか、これまで朗読をやってきている実績が体に流れていて、自己否定を言ってるけど自己肯定、みたいになっているんですよね。
それを意識しているのか、いないのかはわからないですが、ここはすごく藤寺さんのパーソナルな部分にもリンクしていて、それがにじみ出ている感じがしたので、ただ感情的に演じるだけでは出ない意味合いの深さを感じました。
あと、上向きになる芝居なので、花奈ちゃんを応援したくなるんですよね。「この子が見る景色をもう少し見てみたい」と思える感じがする。いち視聴者として見たときに、「次にどうなっていくんだろう」って思わせる強さがあるなと思います。なので藤寺さんって、きっと明るい子なんだろうなと思っています。
──掛け合いをしてみての感想などはありますか?
千葉:すごく楽しいです。キャッチボールしようとしてくれる感じで、たとえば相手がリテイクを重ねていたとしても付き合ってくれて、それが何度掛け合いをしても、ちゃんと新鮮なのが本当にすごいと思います。5回やってもずっと1回目のテンションなので、すごくありがたいです。このまま走り続けたら最強だと思います(笑)。
──では最後に、今後の見どころの紹介をお願いします。
千葉:僕が声優を教わった方々が、朗読に対して実績や熱を持っている方だったので、その方たちに教えていただいたことが、少なからず自分の中に残っているんです。そういった「表現を高めていく」みたいな話が、このあと出てくるのが、個人的には嬉しいです。
今は、すももが丘高校の放送部の話ですが、他校と競うことになったときに、「何が技術的に上か下で、感性はどうなのか」といった話になってくるんです。なかなかここまで声に関して突き詰めることってないと思うので、作品のテイストとして「青春で明るい雰囲気」の中でそこに触れていることや、作品を見た方たちが朗読やアナウンス、“読み”に対して、何かを感じてもらえるのが非常に嬉しいです。まぁ、冬賀は朗読に参加していないんですけど(笑)、自分が正しいと思っているものを練磨していくことに対しては、「同志」と言って差し支えないと思うので、皆さんがこの作品を好きになってくれることを心から願っています。
[文・塚越淳一]
作品概要
あらすじ
「お前の本当の願いを言え、アタシが叶えてやる」
「私、放送部に入りたいです」
入部を決意した花奈は、たくさんの〝初めて〟を放送部のメンバーと共にし、大好きな朗読を深めていく…。
キャスト
(C)武田綾乃・むっしゅ/集英社・すももが丘高校放送部









































