
ミッションは変化と継承。全三章を通して、アニメ制作の“答え”を提示したいーー『劇場版モノノ怪 第二章 火鼠』中村健治総監督×鈴木清崇監督インタビュー
全員がフラットに「共創」するアフレコ現場
──アフレコ現場にはお二人で立ち会われたと伺っています。
中村:キャストさんには担当いただくキャラクターの過去と未来……未来は予定になりますが、それらを理解していただいた上で、たまたまこの瞬間を切り取ったという感じで芝居していただきたいなという想いがありまして。しっかりと「この人とこの人は仲良くて、あの人のことは嫌い」みたいな説明はしています。
台本に芝居の説明を沢山書くようにしていますが、それでもやっぱり足りないんです。原作ものと違い、オリジナル作品はヒントが何もないので、ストーリーバイブルを章ごとに作っていて。そこにできるだけ物語全体の流れ、その中で演じもらう役はどんな役割を持っているのかなどを書きつつ、現場でも説明しています。
また、色々なディスカッションをする中で、セリフの修正も現場で入ります。ひとつのシークエンスが終わると、音響監督の長崎(行男)さんが「みんな、どう?」みたいな感じで尋ねてくるんです。それに対して演出や監督などその場にいる人は「何を言ってもいい」ということになっていて、役者さんからも意見をいただいたり、割とフラットな関係性で「共創」しながらアフレコできたと思うけど……どう?
鈴木:おっしゃる通りです。台本や画面の裏にあるものを皆で掘り出していくというか。「キャラクターに命を吹き込む」という表現をよく聞きますが、文字通り「あっ!? このキャラクター生きてる!」と感じる瞬間がありました。
フキとボタンに関しては、どちらかのお芝居が勝ってしまうと作品自体のバランスが崩れてしまうと思っていて。演出も細かい骨組みで芯を作るような感覚というか。微妙なバランスが崩れないよう注意しながらアフレコを聴いていました。
と言っても、フキ役の日笠陽子さんもボタン役の戸松遥さんもストーリーバイブルをしっかり読み込んでいて、中村さんの説明をしっかり理解されていたので、ほぼお任せでした。
──フキとボタンは物語の前半と後半で役割が大きく変わった気がします。それぞれのキャラクターはどのように描かれたのでしょうか?
鈴木:フキは町人の出身で、「お父さん(良路)も弟(三郎丸)も頼りないから私が頑張らないと時田家はやっていけないわ」と思いながら、時田家をひとりで背負っています。序盤は必死に生きている女性として描かれますが、物語が進む中で権力争いが表に浮上してくる。最終的には「本当に自分が守りたいものは何だろう?」と気付かされて、変わっていきます。変わった後もしたたかで、しなやかな女性として大奥の中で生きていく姿は素晴らしいなと。
ボタンは個人的にも共感性が高いキャラクターです。父親の大友は裏がありそうな人ですが、大奥を維持するためには必要だったものが少し歪んだ形になってしまっただけだと思います。ボタン自身は職場を守ることが世間一般を守ることであるという政府の役割を持っているので、「自分を捧げて大切なものを守る」という気位の高い女性として描かせていただきました。自分の信念が崩れた時に、感情をあらわにして叫ぶシーンもありますが、それでも自分の中にある大切なものは変わらなくて。強い決意を持った行動に出られるところが魅力的な人だと感じています。
──中村さんは日笠さんと戸松さんのお芝居について、どのような印象を持たれましたか?
中村:パンフレットに掲載されている日笠さんのインタビューに「すごく迷った」と書かれていたんですけど、現場で見ていても「そんな瞬間あったかな?」って。自分たちは「へえ、なるほど。おお~っ」とか言いながら、ただ聴いていただけでした(笑)。逆にお芝居を聞いた後で絵の修正をしたくらいだったので、本当に素晴らしかったです。
戸松さんは『C』でご一緒した時、その演技力で作品を助けていただきました。ご本人にも直接お伝えしましたが、当時はすごく感謝していたので、またご一緒できることが楽しみでしたし、今回も「やっぱり戸松さんで良かったな」と。日笠さんと戸松さんだけではなく、良路を演じていただいたチョーさんや老中たちをやっていただいた方々など、一人ひとりのお芝居が面白くて、アフレコは楽しかったです。
──『劇場版モノノ怪』で初めて中村監督とご一緒した日笠さんは、「事前にいただいた緻密な資料を見て、まじめで口下手な人だと思ったら文章そのままの人だった」とおっしゃっていました。
中村:言われてみれば、日笠さんから「面白い人見つけた」みたいな視線で見られた気はしていました(笑)。
最近よく「中村さん、文章がうまくなったね」って言われるんです。昔は喋った方が速いから、ミーティングと情報共有ツールを使って、みんなが同じ情報を持って考えられるようにしていました。
ただ、近年のアニメの現場が大企業病になりつつある中で、誰もが参照できる資料を文章で提示して、誰でも理解できることはとても重要なのかなと。「なぜこういう作品を作るのか」や「この人はなぜこういう性格なのか」など、文脈をたどれば分かるようにして。更に理解を深めたい人は「もっと参加してね」ですし、資料で理解できた人は「これでいいよ」と。スタッフごとに入りたい深さが違うので、相手に決めてもらえるようにしています。
『劇場版モノノ怪』は業界のオルタナティブなポジションにいる作品
──「第一章」で中村さんにインタビューさせていただいた際、「声優のすごさを見せたい」と語られていましたが、そのすごさは今回も存分に発揮されている訳ですね。
中村:声優さんは器用です。ただ、ビジネスとクリエイティブの側面で考えてみると、ある意味でビジネス的な需要に最適化しているようなお仕事も多い気がしています。それ自体は悪いことではないし、声優というお仕事が稼げるようになっている証なので喜ばしい限りです。
でも、そればかりやっていると飽きる人もいるんじゃないでしょうか。だからこそ「『劇場版モノノ怪』のアフレコは息抜きに来てください」と。変わった刺激によって、今までやっていたことにもちょっと深みが出たり、新鮮な気持ちに戻れたりすることもある。業界のオルタナティブなポジションにいることは少し意識しています。
──フキとボタンは「第一章」から登場していたことを考えると、「第二章」に登場していた誰かが「第三章」のメインになるかもしれないですよね。そういう意味では、みんな可能性があるように思えて。
中村:それをクイズにして、当たった人には何かプレゼントするキャンペーンを宣伝の人がやってくれる……かもしれません(笑)。
──薬売り役の神谷浩史さんに「第三章」への意気込みをお聞きしたところ、「知ったこっちゃないです(笑)」とおっしゃった後に「ただ「大変そうだな」と思うだけで、「スタッフさん、頑張ってくださいね」みたいな感じです」と。
鈴木:あはは(笑)。
中村:今、まさに大変です。みんなが巻き込まれています。
鈴木:「第三章」も面白いと思います。
「そうなるんだ!?」と「それやるんだ!?」という驚きが同時にあって。「本当に完成するのかな?」という心配はありますけど(笑)、完成したらすごいものになりますよ。僕自身も純粋に楽しみです。
中村:「第一章」から順を追っていく過程で、作り方自体も整理されていきました。
「第一章」を作っていた時は普段のアニメの作り方とは違うからこそ、混乱している人も多かったです。「第二章」で鈴木くんが整理してくれて、「こういう風に作るなら、仕組みを変えればいいんだ」と。「第三章」では、その仕組みを試す形になります。
これは『劇場版モノノ怪』だけの話ではなくて、これからのアニメの作り方の“答え”なのかもしれないと思っていて。「そろそろ変えていかないと、ダメなんじゃないですか?」と提案をしている部分もあったりします。つまり現状は想定外の大変さというよりも、想定される大変さというか。大変なことがわかり切っているうえでの大変さですね。
──今後の展開も楽しみにしています。最後に、ファンのみなさんへのメッセージをお願いします。
鈴木:「第一章」は何度も観てくださった方も多いと思いますが、「第二章」は1回で理解できる物語になっています。ただ何回も観ていただくことで、演出や音楽が意味するところ、物語の奥行きが理解できるので、楽しんでいただけると幸いです。
中村:アニメーションは色々なものが記号的になりがちですが、そこに生々しさを加えることで、「この人たちは本当にいるんじゃないか?」と思えるようになるんじゃないかなと。
ボタンやフキはもちろん、他の人たちもそれぞれの人生を生きているので、そういう人の息遣いを感じていただきたいです。どのキャラクターを好きになってもらってもいいし、誰を嫌いになってもいい。リアルな人に感じるような印象や感情にこだわったつもりなので、観ていただけたら嬉しいです。
[インタビュー/永井和幸]
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『劇場版モノノ怪 第二章 火鼠』作品情報
あらすじ
錯綜する思惑、やがて暴走する“火消し”の策略……。時を同じくして、突如として人が燃え上がり、消し炭と化す人体発火事件が連続して発生。モノノ怪の仕業とにらんだ薬売りは事態を収めようとするが、群れで行動し、神出鬼没の怪異に手を焼く。この怪異の正体は「火鼠」の子供たちで、彼らはただ人を襲うだけではなく同時に母を探しているようだが、本体である火鼠の母親はなかなか姿を見せない。火鼠は何故、赤子を狙うものたちを襲うのか。自らを燃してもなお止まらぬ火鼠の情念がもたらす悲劇とは。
薬売りはその謎を解き、モノノ怪を斬るための三様【形・真・理】を突き止めるべく大奥に巣食う闇へと足を踏み入れていく。
キャスト
(C)ツインエンジン














































