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『星つなぎのエリオ』日本人スタッフが語る「ライティング」の世界【インタビュー】

無数のトライ&エラーが“傑作”を生み出す――『星つなぎのエリオ』ピクサーで働く日本人スタッフ・奥村裕子さんが語る「ライティング」の世界【インタビュー】

 

存在しない光をどう作る? 宇宙を舞台にした「ライティング」の挑戦

──『星つなぎのエリオ』についてもお話を伺えればと思います。宇宙を舞台にした作品ということで、ライティングを手がける上でこだわられた部分や挑戦された点について、お聞かせください。

奥村:今回は世界観が非常に幻想的で、美しいルックが特徴の作品です。キャラクターも本当に綺麗なので、まずは「可愛く、美しく」。とにかく夢のように綺麗な絵柄に仕上げる必要がありました。SF的な要素に加え、スタイルとして単に現実的に見せるのではなく、色彩豊かなビジュアルで表現することが求められたんです。「どこまで綺麗に作り上げられるか」というプレッシャーは感じていましたね。

 

 

──特に「コミュニバース(星々の代表が集う場所)」は、誰も見たことがないようなルックになっていると感じました。

奥村:他の作品と大きく違うのは、「現実には存在しない光源がある」という点です。太陽光や光が反射して生まれる間接光(バウンスライト)のような、通常の光源が使えない状況で、立体感(シェイプ)を美しく見せなければなりませんでした。存在しない光源を作り出すと言いますか。例えば、キャラクター自体を光源にしてみたりとか。

──キャラクター自体を?

奥村:キャラクターの特定の部分をメッシュライトのように設定して、それ自体をランプのように発光させました。そうして生まれた青や紫の光が優しく当たるような感じです。そうしないと「画面が真っ暗で何も見えない」という状況になってしまいます。その点は非常に大変でした。逆に言えば、ゼロから世界を「作っている」という実感があって、とても楽しかったです。

──物語の面では、エリオとグロードンの関係性が非常に重要だと思います。キャラクターの感情に寄り添うライティングという観点では、今作ではどのようなアプローチをされたのでしょうか?

奥村:孤独に悩んでいた二人の子供が出会い、友達になることで、一気に世界が広がっていく。特にエリオは、地球に自分の居場所はないと信じていましたが、外の世界で友人を得て、そこから彼自身の世界も大きく広がっていきます。この友情がもたらす世界の広がりを、観客が見て楽しくなるように、鮮やかで美しく表現する必要がありました。二人の友情は、この映画の最大の見せ場ですから。「そこには力を入れなければならない」と考えていました。

 

“傑作”は一日にしてならず。温め続けたその先にあるもの

──奥村さんも、ご自身の表現を追求するために外の世界へと飛び出されたわけですが、エリオに共感する部分もあったのでは?

奥村:ありました。私自身、日本にいた時は思うようにやりたいことができず、学生時代には日本でCGを専門的に学べる学校がなかったので、アメリカへ渡るしかありませんでした。「まずはアメリカへ行って勉強してみたい」という気持ちで外に出たんです。だからこそ、改めて日本の良さに気づくこともできましたし、アメリカでしか出会えなかった友人や素晴らしい同僚との出会いは私の宝物です。

一方で、映画が描いているように、「居場所がない」と思っていても、「実は身近に理解者がいる」というメッセージは本当に素晴らしいと思います。日本の社会も、子供たちにもっと温かい目を向けてあげてほしいです。少し浮いていたり、変わっていたりする子を異端的に扱うのではなく、それも個性だと受け入れて、みんながのびのびと成長できる優しい社会であってほしいと願っています。

──最後に、ピクサーの作品制作に携わる中で、ご自身に生まれた変化や新たな気づきを教えてください。

奥村:ピクサーの作品は、常に強いメッセージ性を持ち、感情に訴えかける物語が魅力です。制作中は、どうしても目の前の細かい作業に集中してしまい、なかなか作品の全体像は見えません。自分の担当箇所は分かっていても、それが映画全体の中でどれだけ重要な意味を持つのかは、少し時間が経ってからでないと分からない部分もあります。

完成した作品を観た時に、物語の深さやメッセージ性に改めて感動して、共感できる部分がたくさんありました。さまざまな世代の人が、子供の頃を思い出したり、観終わった後に良い気分になったりできるのは、とても大切なことだと思います。観た後にほんのりと温かい気持ちになれる、そんな作品に携われたことが嬉しいです。

 

 

──様々なお話を伺う中で、完成までの道のりが決して簡単なものではないということにも改めて気付かされました。

奥村:最初から“傑作”はできないんですよね。だからこそ、「とりあえずこれで完成にしよう」「予算がないからこのまま進めよう」といった妥協は絶対にありません。世に出して恥ずかしくない物語になるまで、徹底的に作り込みます。それは最初からそうなるわけではなく、多くのスタッフの努力と、無数のトライ&エラーの末に生み出されたものなのです。

その制作姿勢を見ていると、日常生活においても、少し失敗したくらいではへこたれなくなった気がします。素晴らしいアイデアを思いつく人は、恐らくたくさんいる。でも、実際の制作(プロダクション)を通して、「そこから形にしていく過程が一番大変なのだ」と知りました。「温め方」次第で、作品は変わる。「自分には才能がない」「向いていない」と諦めるのではなく、その後の「温め方」が大切だと思います。

 
[インタビュー/小川いなり]

 

『星つなぎのエリオ』作品情報

8月1日(金)全国劇場公開
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン

星つなぎのエリオ

あらすじ

ディズニー&ピクサー史上最も“やさしい”感動につつまれる物語。

ひとりぼっちの少年・エリオは、一番の理解者の両親を失った寂しさを抱えて、大好きな宇宙にいつも思いを馳せていた。

「この広い世界のどこかに、“本当の居場所”があるはず」彼の切ない願いが届き、星々の代表が集う夢のような“コミュニバース”に招かれる。そこで出会ったのは、同じように孤独なエイリアンの少年・グロードン。「そのままの君が好きだよ」―心を通わせる彼らに迫る、“星々の世界”を揺るがす脅威。

それを救うカギは、孤独なふたりが交わした“ある約束”にあった—。

キャスト

エリオ:川原瑛都
グロードン:佐藤大空
オーヴァ:渡辺直美
オルガ:清野菜名
ウゥゥゥゥ:野呂佳代
メルマック:中谷(マユリカ)
ヘリックス:関智一
クエスタ:沢城みゆき
テグメン:安原義人
ユニバーサル・ユーザー・マニュアル:子安武人
グライゴン:松山ケンイチ

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