
『この本を盗む者は』御倉ひるね役・東山奈央さん×与謝野蛍子役・伊藤静さん×春田貴文役・土屋神葉さんインタビュー|本の世界の演じ分けは“声優の腕の見せどころ”。多層的かつ多面的な「読長町」をキャスト全員で作り上げる
ひるねの寝言アドリブにも注目
ーー本作のアフレコ現場について、お聞かせください。
東山:何グループかに分かれて収録しました。深冬ちゃん役の片岡(凜)さんと真白役の田牧(そら)さんは別で、静さんと土屋さんは一緒だったそうです。私は要純一郎役の千葉(繁)さん、菊地田治役の関(智一)さんがいるグループでした。千葉さんも関さんも大先輩すぎて、「勉強になる」というよりも「圧倒された」という言い方が正しいかもしれません。
ーー東山さんは寝言に関するアドリブを入れたとか。
東山:前半のひるねさんは、寝言などの文字にならないセリフが多くて。「面白く、可愛くやってください」というディレクションをいただいたので、「どんなヘンテコな寝言を言おうかな」と考えるのも楽しかったです。「今、変な寝言が聞こえた!?」と作品に没頭していくためのフックになったらいいですね。
ーー伊藤さんと土屋さんは一緒に収録されていたんですよね。
伊藤:こちらのグループは人数が多かったです。
土屋:20人くらいだったと思います。
伊藤:かと言って、収録はつつがなく進みました(笑)。
ーー蛍子と春田は、本の世界での役柄も次々に変わっていきます。
伊藤:普段声優としてやっている仕事を、1つの作品の中で何作品もやっている感覚でした。1つの世界が終わったら「じゃあ、次の作品に行きます」みたいな。ガラっと変わる人もいれば、変わっているようで芯の部分はそのままの人もいたので、演じる役ごとに向き合い方も違った気がします。
東山:普通は最初の役作りのまま最後まで走っていけますが、この作品では本の世界ごとに1回1回立ち止まって、そのたびに調整しないといけないですよね。
伊藤:でも、役者それぞれが持ってきたもので一度やってみて、「全然違います」みたいなことはなかったと思う。
東山:皆さんすごい!
土屋:僕は「それぞれの世界で春田くんが生まれ育ったらどうなるかな」と想像しながら演じていました。現場によると思いますが、アフレコはある意味で“持ち寄りパーティー”みたいなものじゃないですか?
伊藤:たしかに。「こんなの持ってきたよ!」「どれどれ……いいね!」って。
土屋:それと同時に発見や学びもありました。例えば鈴木峻汰さんが演じるチェ・タンビは、現実世界と本の世界での変化がかなり大きかったんです。でも、鈴木さんは世界ごとに声色を変えるのではなく、お芝居で変化をつけていて。他の役者さんもそれぞれ違うアプローチで臨まれていて、とても勉強になりました。
多層的かつ多面的な世界を楽しんでほしい
ーー完成した映像はいかがでしたか?
東山:すごく美しくて、どこを切り取っても素晴らしかったです。
大好きな大島ミチルさんが音楽を手がけられていて、劇場の大音響のスケールですら飛び越えてしまうくらいのオーケストラサウンドに感激しました。私の中にあるワクワク感が呼び起こされて、自然と本の世界に誘われるような感覚になりました。
伊藤:五感で楽しめる映画になっていますし、ストーリーにも惹きつけられるので、色々な視点から何度でも楽しんでいただけると思います。
土屋:美しい映像と音楽が調和しつつ、目まぐるしく展開する中で、一瞬の静寂、お芝居でいうところの間(ま)があります。それはキャラクターの心情が動く瞬間であって、これぞ映画だなと。作画監督の黒澤(桂子)さんが1カット1カットに愛情を込めて、作っているというお話もお聞きしたので、大きなスクリーンに相応しい情報量とクオリティになっているはずです。
ーー最後に、本作の見どころとキャラクターの注目ポイントをお聞かせください。
東山:公開前に言えないことも多いのですが、ひるねおばちゃんの見どころは後半です! 物語が進んでいくと、「ひるねさんはこんなことを考えて生きていたんだな」と分かって、演じる私も思わずグッときてしまいました。ひるねさんの想いを受け止めていただけると嬉しいです。
また、福岡監督とお話しさせていただいて、教えてもらうまで気付かなかったギミックが沢山あることを知りました。キービジュアルにも鳥肌が立つような仕掛けがあって、文字通り、練りに練った作品なんです。考察好きの方はやり甲斐がありますよ! 観終わった後に、誰かと語り合うと楽しいかもしれません。
伊藤:個人的に好きなのはハードボイルドの世界の時に登場した蛍子さんです。「実は優しいじゃん」と感じたので、少しだけ優しさを滲ませたお芝居になっていると思います。
「本の世界では別人になる」とお話しましたが、「本の世界でも、蛍子は知りたいことのために動いているのかな?」と思える瞬間でもあって。そういうところにも注目していただきたいなと。全体的な見どころは奈央ちゃん以上のことは言えないので……ひと言でまとめると「す・ご・い」(笑)。
一同:(笑)
土屋:春田くんの見どころと言えば、彼の本質が劇中劇で垣間見えるシーンだと思います。人はいろいろな夢を見ますが、その中に本音や本質が隠されていることもあると思っていて、同じように物語だからこそ出せる側面がある。春田くん以外のキャラクターにもそういう瞬間がありますし、キャスト全員で色々な世界を作りました。
一つの事象に対して、人それぞれ見え方や捉え方が違うように、暮らす人々にとって、読長町自体も多層的かつ多面的。そういった深みも楽しんでいただきたいです。
[インタビュー/永井和幸]
『この本を盗む者は』作品情報
あらすじ
書物の街・読長町に住む高校生の御倉深冬。曾祖父が創立した巨大な書庫「御倉館」を代々管理する一家の娘だが、当の本人は本が好きではなかった。ある日、御倉館の本が盗まれたことで、読長町は突然物語の世界に飲み込まれてしまう。それは本にかけられた呪い——“ブックカース”だった。呪いを解く鍵は、物語の中に——町を救うため、深冬は不思議な少女・真白とともに本泥棒を捕まえる旅に出る。泥棒の正体は一体誰なのか?そして、深冬も知らない“呪い”と“御倉家”の秘密とは……?
2人の少女が“本の世界”を旅する、謎解き冒険ファンタジーが開幕!すべての呪いが解けるとき、あなたは奪われた真実と出会う——
キャスト
(C)2025 深緑野分/KADOKAWA/「この本を盗む者は」製作委員会


































