
UNISON SQUARE GARDENロスの私は彼らの軌跡をアニメで辿ることにした──ジグザグすぎる10人のあまりにも不明瞭で不確実な箱根駅伝物語『風が強く吹いている』を語りたい
シンプルな“走る”ことの奥深さと熱さ
私は運動が苦手だ。学生時代は文化部だったし、体育のマラソンも大嫌いだった。当然、駅伝競技などに興味はまるでなかった。
しかし、本作を通して知った“走る”ことの奥深さに強く好奇心を掻き立てられることになった。作中のハイジの台詞にこんな言葉がある。
「お前の価値基準はスピードだけなのか。だったら走る意味はない。新幹線に乗れ!飛行機に乗れ!その方が速いぞ」
これは自分より遥かに遅い住人達の努力を認めようとしないカケルに対するものだ。彼らがやっているのが競技である以上、速さを求めるのは当然のこと。しかし、ハイジはそれだけでは虚しいと言う。
最初、私はこれがどういうことなのかいまいち理解ができなかった。競技なのだから、速い方に価値が生まれるのは当たり前だと思ったからだ。
だが、最終話まで観るとその意味がよくわかった。カケルは今まで長距離選手として研鑽を積んできたことは間違いないが、今の実力をつけるにおいてそもそもとても恵まれているのである。
彼は細く無駄な脂肪が付きづらい長距離選手向きの体質で、これまでたくさん走り込んでいるだろうにも関わらず、怪我をすることもなかった。
それに対して他の選手はどうだろう。かつて強豪校で走っていたハイジは、過度なトレーニングで右膝を壊し、今も怪我を抱えているし、高校では長距離走をやっていた平田彰宏(あだ名:ニコチャン)は、走ることが好きだったものの骨太で脂肪のつきやすい体質によって記録が伸びず、挫折して陸上を離れた。
しかし、ハイジもニコチャンも走ることが好きで諦めきれなかった。
陸上未経験の他選手も、たまたま今のタイミングで長距離を始めただけであって、彼らもカケルと同じように前々からやっていれば、同じようなランナーになっていたかもしれない。
それでも彼らは、走り始めると走ることを心から楽しむようになったし、愛するようになった。走れば走るほど、その想いや姿勢はどんどん純粋さを増していく。主題歌にあるように「純粋さは隠すだけ損」なのだ。
速さだけを求めるのであれば、彼らはカケルより価値がないことになるが、真剣に走りに取り組む彼らを見ていると、彼らに価値がないなどとは到底思えない。走るという行為に真剣に向き合うこと自体が尊いものなのだと彼らの姿が証明している。
また、長距離走の孤独さもとても印象深い。どんな大所帯のチームに所属していたとしても、他のランナーといっしょに走っていても、走っている時はたった1人。
左右の足を交互に出すことは自分の意思でのみ行えるものであり、走ることで激しく打たれる鼓動も、呼吸の苦しさも、感じられるのは自分ただ1人なのだ。その苦しさに耐え、タイムを1秒でも縮めるべく長い距離をひた走る──長距離走は孤独な自分との戦いだ。
箱根駅伝はどの区間も20km以上の距離を走り、その間選手はずっとひとりぼっち。遥か先で待つ仲間に襷を繋ぐべく、孤独な戦いを続けるのである。
その中で重要なのは強さである。それを最も体現してみせたのは山登りの5区を走る杉山高志(あだ名:神童)。
穏やかで優しく、練習にも早い段階から前向きに取り組んでいた彼は、不運なことに箱根駅伝当日に体調を崩してしまう。
補欠のいない寛政大は1人でも棄権すれば失格となってしまうため、高熱が出ている最悪のコンディションでも神童は自らの意思で走ることを選択。
目は虚ろで足取りはフラフラ。それでも神童は「みんなが待ってるから」と険しい山道を登りつづける。死に物狂いとはこのことを言うのだと私は思った。
チームメイトも、応援してくれている周囲の人たちも、テレビ越しに見守る故郷の家族も、涙するほど心は神童を想っているのに、いくら病人といえどこの孤独な戦いに決して手を貸すことは許されない。見ていることしかできない仲間たちも苦しかっただろう。
そしてついに、神童は20.7kmを走り切る。高熱の身体を引き摺りながらも戦い抜いたのだ。当然タイムは振るわない。しかしながら誰もがその強さを讃えた。
走ることは孤独で、長距離走が強さがものを言う競技だなんて、本作に触れるまで私は全く知らなかった。駅伝が襷によってその孤独な戦いと想いを繋ぐ競技だと言うことも。
運動はめっぽう苦手な私だが、少しだけ孤独な世界に触れてみたい、走ってみたいと思うのは安易すぎるだろうか。
けれど、走るというすごくシンプルな行為がとても奥深いものであること、そしてアオタケメンバーの走りが心を熱くさせるものであることは間違いないのだ。
走りと向き合う10人の物語
孤独に走っていると、どうしても自分と向き合うことになるのが長距離走。アオタケメンバーそれぞれの過去や人柄が深掘りされると、「君も傷ついてきたんだね」という主題歌の歌詞が想起される。(2番のものなのでOPでは使用されていないが)
この歌詞の後には「それならその合図で反撃してやろうじゃない」というフレーズが続くのだが、そうなると彼らの「箱根駅伝出場」は彼らなりの「反撃」のように思えてくる。
反撃の対象は、因縁をつけてきた他校の選手かもしれないし、親や昔の監督かもしれないし、はたまた過去の自分かもしれない。
その反撃劇のシンプルながら奥深い魅力に私は惹かれ、彼らの物語から目が離せなくなった。是非、主題歌「Catch up, latency」とともに1人でも多くの方に本作を楽しんでいただきたい。
作品情報
あらすじ
キャスト
(C) 寛政大学陸上競技部後援会
























