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- 藤崎萌恵
- 大阪府在住のライター。小説、漫画、アニメ、映画など“好き”を追い続ける。

2026年4月10日より公開中の劇場版『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』(以下、『ハイウェイの堕天使』)。神奈川県を舞台に、風の女神(エンジェル)VS黒き堕天使(ルシファー)のバトルミステリーが繰り広げられます。
本作では、毛利 蘭が“風の女神様”と評して憧れる神奈川県警交通部第三交通機動隊小隊長の萩原千速をメインに、同じく神奈川県警捜査一課の横溝重悟警部が登場。警視庁交通課の宮本由美と三池苗子、蘭や鈴木園子のクラスメイトで友人の世良真純が活躍を見せるなか、探偵・江戸川コナンの推理も冴え渡ります。
ストーリーとしては“ルシファー”の多層的な謎を縦軸に、千速と重悟の関係、そこに絡む千速の弟・萩原研二と親友・松田陣平の話を横軸に展開。研二と松田が登場するということで、今回の映画で何が明かされるのか多くのファンが心待ちにしていました。
本稿では、そんな『ハイウェイの堕天使』で存在感を示す萩原研二と松田陣平を深掘り。観客を釘付けにする2人の関係性を、これまでの歴史とともに紐解いていきます。
※本稿には『ハイウェイの堕天使』のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。
あの時、研二は何を言おうとしていたのか──7年前の記憶を辿りながら、千速はそう問いかけていました。
劇場版第25作『ハロウィンの花嫁』では、物語序盤で爆死した人物が捜査一課時代の松田の名刺を所持していたことから、松田の死の前日である3年前の11月6日の動向が語られました。そして『ハイウェイの堕天使』で明かされたのは、研二が殉職した7年前の11月7日の出来事。
朝食の用意をしていた千速が研二の部屋の前に行くと、何やら電話で千速の話をする研二の声が。千速のことをあれこれ話していましたが、その後に続く言葉を千速は聞き逃してしまいます。
部屋には研二と一緒に何故か松田の姿も。前の晩から泊まっていたのか非番で遊びに来ていたのか、もしくは入り浸っていたのか。この後、警視庁警備部機動隊爆発物処理班の研二と松田は緊急招集で爆弾処理の任務へと急行し、研二は帰らぬ人に──。
弟の死を千速はどんな形で知ったのか、その真実が今作で明かされました。研二への繋がらない電話、松田がここにいる意味、絶望の底にいるような表情。ついさっきまで日常の中にいた千速は、ほどなくして残酷な現実を察して深い悲しみに襲われます。
松田はというと、爆発の直前まで研二と電話していたのが自分なのだから尚更、その傷はどれほど痛くて深いものか。それでも千速のもとへと向かい、一番辛い役割を自ら果たそうとしていたのだと思うと胸が張り裂けそうです。
千速があの言葉の続きを知らないのは、2人して当時の話に触れることを避けていたのか、あるいは松田に尋ねる機会がなかったことを示しているのかもしれません。
かつてプロボクサーだった父が殺人容疑で誤認逮捕された件で警察に強い不信感を抱いていた松田ですが、彼は道を外れることなく、警視総監を殴るためにという理由を掲げて警察官になる道を選択。さらに爆弾犯によって大切な親友である研二を失っても、やはり警察官として犯人を追い続けていました。
松田を突き動かすのは、研二と一緒に過ごした時間。そして、爆発の直前に電話で交わした「自分が死んだら敵をとってくれ」という研二との約束。彼は千速への想いを封じ込めて、親友の敵をとるために自らを捧げていたようにも見えます。
松田は千速に一目惚れして以来、本気で惚れ込んで、一途に彼女を想い続けてきました。そんな松田にとって子供の頃から一緒にいる研二は大切な居場所でもあり、唯一無二の友情を非常に大切にしていたことも窺えます。松田が送り続けたメッセージもその証。彼の性格なら、犯人を捕まえるまで千速とは会わないと決めていたとも考えられます。
研二の存在はあまりにも大きく、7年前のあの日以降、松田は居場所を見つけられないかのように、どこか哀愁を纏う孤高の刑事の風貌に。捜査一課の佐藤刑事による3年前の回想では、あの無邪気な笑顔を封じ込めたかのように、孤独で大人びた姿を見せていました。
とはいえ『ハロウィンの花嫁』では少し違った顔も。警察学校時代の同期である降谷 零、伊達 航、諸伏景光と一緒に研二の墓参りをする姿を見ると、松田はひとりではなかったのだと少し安堵できます。松田にとって彼らは同じ研二の友として、気を許せる存在だったのでしょう。
一方で、同期4人を失った降谷の孤独に時折どうしようもなく胸が締め付けられますが、降谷を支えるのもまたこの4人。彼らから受け継いだものを胸に前を向いているのも事実。だけど、それでもやっぱりみんな生きていてほしかったと何度も何度も願わずにはいられなくなるのです。
研二と松田を死に追いやった連続爆破事件の犯人を捕える際、佐藤は「こんな奴のせいで!」と感情を昂らせて激しく憤っていました。
佐藤の本音には共感せずにはいられないのですが、松田も因縁の爆弾犯に対して憎しみを抱いているはずなのに、最期には研二のカタキを取ることよりも大勢の人の命を救うことを優先して、自らを犠牲にしたのです。研二なら分かってくれる、きっとそう信じて──。警察学校時代には警察嫌いを主張していた松田ですが、彼は警察官としての誇りと正義感を持ち続けていました。
3年前、捜査一課に異動した松田は、父親の形見である手錠をお守り代わりにしている佐藤に「忘れるこたぁねーよ。前に進めるかはあんた次第。あんたが忘れちまったら あんたの親父は本当に死んじまうぜ?」と諭していました。
これは研二を失った松田自身のことでもあるといえます。そう、研二は松田の中でずっと生き続けているのです。もう二度と死なせたりはしないと──。
後に捜査一課の高木刑事もまた、松田のことを「忘れさせてよ」と叫ぶ佐藤にこう告げました。「それが大切な思い出なら忘れちゃダメです。人は死んだら、人の思い出の中でしか生きられないんですから」と。
高木は松田と似ているとして松田の変装をしたこともありますが、本当に似ているのは本質。この「忘れちゃダメ」という言葉にしても、松田の姿が重なるようでした。
千速も案じている通り、高木は松田と一緒で危うい。こうと決めたら後先考えずに突っ走るし、直感的に危険な矛先を自分に向けて大切な何かを守り抜く。松田の傍若無人なところは高木にはあまりなさそうですが、どこか放っておけないところも似ているように思います。
千速一筋だった松田が、佐藤に“あんたの事 わりと好きだったぜ”と最期にメールを送ったその真意は読みきれないところもありますが、千速が佐藤を見て昔の自分に似ていると感じていた描写は、松田もまた佐藤から同じように感じ取っていた可能性を示唆しているのかもしれません。
『ハイウェイの堕天使』の最大の窮地で千速が弱気になっていたとき。重悟はくれぐれも無茶をするなと心配しながらも、千速に寄り添って背中を押していました。重悟が千速に電話で伝えたのは、届くはずのなかったあの日の研二と松田の言葉。
“バイクに乗った千速は無敵だ!”
時を超えて研二と松田の言葉が届けられ、この瞬間、千速は無敵になったのです。挫けそうになっていた千速を、研二と松田が奮い立たせます。
疾走感溢れる音楽が勢いを増し、ふと『ハロウィンの花嫁』を感じてさらに涙腺を刺激されてしまいます。あの印象的な旋律がほのかに聴こえて、研二と松田の気配を感じたような気がしました。
思い返すと、7年前には2つの爆弾が別々の場所に仕掛けられ、研二が解体していた爆弾は止まっていたはずのタイマーが動き出しました。3年前に松田が乗り込んだ観覧車では、爆弾の爆発3秒前にもう一つ爆弾のありかを示すというトラップが。
『ハロウィンの花嫁』で3年前の爆弾は二段階で発動しており、この時は警察学校の同期たちの連携、研二と松田の知恵と技術により止めることに成功。今回千速はコナンの協力、そして重悟によって繋がれた研二と松田の言葉で無敵となり、“二重に”仕掛けられた爆弾に打ち勝ったのです。
千速に好意を寄せる重悟にとって、実のところ松田は“死んでも手強い相手”、いわゆる恋のライバルとも言える存在でありながら、千速のために研二と松田の言葉を伝えるという、最高のイイ男っぷりを見せつけてくれました。
高木が松田への想いごと佐藤を包み込んだように、重悟もまた研二と松田との思い出ごと千速を受け止めるということでしょう。
本作の主題歌「ラストダンスあなたと」(MISIA)にはこのような歌詞が。
“抱きしめられた記憶が これからを抱きしめてくれる”
最愛の研二と松田の存在と記憶は、これからも千速を抱きしめてくれる。研二と松田が大切に想う千速の中で、2人はずっと生き続ける。『ハロウィンの花嫁』で降谷と4人の同期の絆が描かれたように、劇場版第28作『隻眼の残像』で景光の存在が兄の諸伏高明に生きる力を与えたように、『ハイウェイの堕天使』は千速と弟たちとの心の繋がりに改めて触れることができる映画でした。
かつて松田にスマートフォンを分解された千速が、ライブ会場で友人と会うのを諦めかけたとき、研二が千速を励ましながら強引に連れ出したことがありました。研二は昔から千速に対しても優しさを見せており、“あきらめるにはまだ早いって”と微笑んだ彼の言葉は、千速の心に今も語りかけてくれます。
“バイクに乗った千速は無敵”と信じる研二と松田の言葉もまた、千速を強くさせるお守りになるはずです。
子供の頃からの親友で、ともに警視庁警察学校に入った研二と松田。在学中にスカウトされ、卒業後、2人揃って警視庁警備部機動隊爆発物処理班に配属されました。
相変わらず松田が研二の家に居座りながら2人仲良く過ごしていたことも、あの頃と同じように一緒にいて会話するオープニングでの光景も、大切に噛み締めていたいですね。
さらに研二と松田について特筆したいのは、“アイツならそうするだろう”“アイツならこんなとき……”とお互いに思える関係にあること。大事なときにふと思い浮かぶのが、それぞれ松田であり研二なのです。

| 作品名 | 名探偵コナン ハイウェイの堕天使 |
|---|---|
| 放送形態 | 劇場版アニメ |
| シリーズ | 名探偵コナン |
| スケジュール | 2026年4月10日(金) |
| キャスト | 江戸川コナン:高山みなみ 毛利蘭:山崎和佳奈 毛利小五郎:小山力也 灰原哀:林原めぐみ 萩原千速:沢城みゆき 萩原研二:三木眞一郎 松田陣平:神奈延年 スペシャルゲスト:横浜流星 畑芽育 |
| スタッフ | 原作:青山剛昌「名探偵コナン」(小学館「週刊少年サンデー」連載中) 監督:蓮井隆弘 脚本:大倉崇裕 音楽:菅野祐悟 アニメーション制作:トムス・エンタテインメント 製作:小学館 読売テレビ 日本テレビ ShoPro 東宝 トムス・エンタテインメント 配給:東宝 |
| 主題歌 | 「ラストダンスあなたと」MISIA |
| 公開開始年&季節 | 2026アニメ映画 |