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- 逆井マリ
- 神奈川県横浜市出身。音楽フリーペーパー編集部を経て、フリーのライターとしてインタビュー等の執筆を手掛ける。

──内田さんは『クラ★スタ』のベートーヴェンに対しては、どのような印象を持っているのでしょうか。
内田:まっすぐな人ですよね。ボクシングなど、何かひとつのことに情熱を持てる強さがある。それに加えて、人の言葉を素直に受け入れる柔軟さも持っているところが魅力だと思います。それでいて、「やりなさい」と言われても「俺は別にやりたいわけではない」とはっきりとした意思も持っている。
でも、誰かが何かに熱中している姿を見て、その熱をちゃんと受け止めることができるんです。「そんなことに本気になるなんて」とはならずに、「ああ、この人はこれが本当に好きなんだな」と理解できる人。本気である、ということを受け止める力を持っている人なんだと感じています。
──まさに素直ですよね。衝動的に見えて、実は周囲をよく見ているキャラクターでもあるということが第1話からも伝わってきました。
内田:そうなんです。気持ちだけで行く人じゃないんですよね。パッと見は直情的に見えるかもしれませんが、実際は周囲の声をしっかりと聞いて、自分なりの答えを導き出すタイプ。自分の気持ちに嘘をつかないし、気持ちが動いた時はその変化をちゃんと受け止める。そのうえで「じゃあ、自分はどうしたいのか」を考える芯の強さがあるし、音楽に惹かれている自分もいる。ちゃんと人の話を聞いて、でも最終的には自分の意思で決めていく。その“地に足がついている”感じが、すごく魅力的ですね。
──ベートーヴェンは夢に挫折しながらも、強い気持ちを持ち続ける人物です。その姿にご自身を重ねる部分はあるのでしょうか。
内田:性格的にはあまり自分に近いなと思うような感じではないんですよね。だから似ているという感覚はあまりないのですが、「自分もそうありたいな」と思えるような人物ではあります。台本を読んでいて、そういう人物像を描いていけるのは楽しいです。
ただ、自分も「大事にしたいもの」「譲れないもの」ははっきりあるタイプだとは思っています。それこそ、声優という仕事に対してもそうです。声優といっても、さまざまなスタイルがあると思いますが……。自分が思い描く“声優像”というものを大切にしたい、という気持ちがあります。
──その声優像というのは、言語化できるものなのでしょうか。
内田:作品から少し話はそれてしまうかもしれませんが、いちばん自分が声優として大事にしているのは「お芝居」で。声優業=多岐にわたるマルチなお仕事という印象を持っている方も多いと思うんですが、声優が声優である、といえる部分はやはりお芝居なのかなと。声のお芝居という部分にしっかりと芯を持っていたいなと思っています。
いま声優の仕事はすごく幅広くなっていますが、僕はアフレコが好きで、アフレコの現場に立っているときが一番しっくりくる。だからこそ、ちゃんとそこに立てる役者でいたいと考えているんです。とはいえ、アフレコの仕事はオーディションで決まることが多く、自分で選べるものではない。出たいからといって出られるものではないので、不安定でもあるし、確実なものはなくて。
でも僕は、それも含めてすごく好きなんですよ。いただいた縁をつなげられる役者であるかどうか。そのためにも、いつその“縁”が来てもいいように、その縁をつかめるように、常に自分を整えて準備しておくことが大切だと思っています。
たとえ才能があっても努力がなければ足りないし、才能がないと思うなら努力するしかない。そのうえで運が来たときにそれをつかめる力があるかどうか――僕はそういう役者でありたいですね。
──まさに今作も才能(ギフト)のお話。ただ、それを活かすためには努力や継続、そしてタイミングや縁といった要素も必要になるんだなと、お話をうかがいながら改めて感じます。また、『運命を動かす男』であるベートーヴェンですが、お話をうかがっていると、内田さんご自身も、“運命”をつかむために日々積み重ねを大事にされている印象を受けました。内田さんがお芝居をされる上で大切にされていることというのも、もしよかったら教えて下さい。
内田:一番大切にしているのは、「その作品に対して100パーセントの力を注げる状態で現場に臨むこと」です。
もう今年13年目になりますが、これまでの経験からも、キャパシティを超えたときや疲れがたまっているときに、いい芝居ができた実感はあまりないんです。もちろん、完成した作品は多くの手が入って整えられるので、最終的に“悪いもの”にはなりませんが、やはり根本の芝居そのものが良くなければ、作品の本質的なクオリティには繋がらないと感じています。
だからこそ、自分にとって“最もパフォーマンスが出せるキャパシティ”を見極めて、その範囲内で全力を尽くすようにしています。それが、役者として、声優としてあるべき姿だと考えていますね。というか、お話してて自分で驚いたのですが、もう13年目……!?(苦笑)怖いですね、驚きました。
──第1話では、ベートーヴェンが“最高にエモい”歌唱を披露していて。
内田:元ボクサーのベートーヴェンらしく、殴りつけるように歌いました。
──まさに“殴るように歌う”力強いアプローチで、感情を爆発させるような歌唱であったことが印象的でした。『クラ★スタ』の劇中歌は本当にインパクトがあって。
内田:本当にそう思います。この作品の楽曲はどれもすごくパワフルで、一度聴いたら耳から離れないような、エネルギーが凄まじい楽曲が多いです。その音楽を使ったシーンはどれも強烈なインパクトがありますし、そこにキャラクターのドラマが重なっていくので、ぜひ注目してほしいですね。
──上映会では「音楽の三原則」についてもお話されていましたが、ベートーヴェンとしての歌唱の際「音楽の三原則」を意識されていたのでしょうか?
内田:特別に「音楽の三原則」を意識して臨んだわけではないですが、歌う際には自然とそれらを感じていたと思います。
たとえば「ここでハモる」となったとき、ただ音を合わせるのではなく、「この音が主旋律とこう絡むな」といった感覚を大事にしていますし、リズムや言葉の立て方、言葉の置き方も自然と意識していたり。そういうことって、理屈じゃなく体に染み込んでいる部分があるんですよね。本当に、自然と意識していることというか……。きっとそういう経験って皆さんにもあると思うんです。
例えば、学校で合唱をすることがあるじゃないですか。そういう時、細かく理屈を知らなくても、一緒に歌ってるなとか、ハモってるってこんな感じかなとか、そういうことを感じることがあると思います。
今回はキャラクターソングとして歌うシーンがあり、さらに4人曲では他キャストとのハーモニーやユニゾンも多かったので、自然とそうした部分への意識が高まった印象があります。音楽としての完成度はもちろんですが、キャラクターの心情や物語とリンクさせていくのは、役者としてもやりがいがありました。
──SNSでは放送に先駆けて、内田さん考案の「#エモる」というハッシュタグが早速使われていましたが、これから物語がどんな展開を見せていくのか楽しみです。視聴者にはどんな点に注目して観てほしいですか?
内田:「#エモる」……というのは、僕が勝手に言い始めてしまったことではあるのですが(笑)、ぜひ使っていただきたいです。
注目して欲しいところとしては、やはりキャラクターたちそれぞれのドラマですね。みんなそれぞれの想いを持って音楽に向き合っていて、その姿がすごく魅力的です。特にベートーヴェンは、音楽に対してまだ初心者で、何も知らないところからスタートしています。そんな彼が、どう“エモらされていく”のか。どう音楽の力に心を動かされ、変化していくのか。そこがこの作品の大きな見どころだと思っています。それはきっと、観てくださる皆さん自身の心を“エモらせる”ことにも繋がっていくはずです。
また、誰かとその気持ちを共有したり、一緒に見たりすることでより楽しめる作品なのかなと思っています。今はSNSを通じて、視聴者同士がリアルタイムでつながれる時代だからこそ「#クラスタ」「#エモる」ハッシュタグを使って、みんなで盛り上がりながら観るのも楽しいと思います。もちろん、ご家族やお友だちと一緒に観てもらうのもいいんじゃないかなと。何も考えず、気軽に見ても、笑って熱くなれる作品です。
──“クラシック”という言葉がつくと敷居の高い印象もありますが、老若男女、幅広い層が楽しめる作品でもありますよね。
内田:そうですね。タイトルに“クラシック”とついていると、高尚なイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、実際にはとても分かりやすくて、むしろ少年漫画のような熱さを持っている作品なんです。「音楽で心を動かす」というのが、テーマとなっている作品なので。
毎週の放送で、「今週はどんな風に心をエモらせてくれるんだろう」とワクワクしながら楽しんでいただけたらうれしいですね。最後には、笑顔になれる作品になっていると思います。
──音楽はもちろん、人間ドラマとしての“ハーモニー”にも注目ですね。
内田:そうですね。そのハーモニーも本作の大きな見どころだと思います。ぜひ楽しみにしていてください。
[文・逆井マリ]

神奈川県横浜市出身。既婚、一児の母。音楽フリーペーパー編集部を経て、フリーのライターとしてインタビュー等の執筆を手掛ける。パンクからアニソン、2.5次元舞台、ゲーム、グルメ、教育まで、ジャンル問わず、自分の“好き”を必死に追いかけ中。はじめてのめり込んだアニメは『楽しいムーミン一家』。インタビューでリアルな心情や生き方を聞くことが好き。
