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- 逆井マリ
- 神奈川県横浜市出身。音楽フリーペーパー編集部を経て、フリーのライターとしてインタビュー等の執筆を手掛ける。
──本作のテーマのひとつでもある「プリキュアとは何か」を考えさせられるのが、映画オリジナルキャラクターのキュアシュプリームの存在です。今回のインタビューはネタバレOKとのことで、キュアシュプリームはどのような思いから生まれたのかを教えてください。
田中:今回の映画のメインテーマとして「プリキュアって何?」がありました。そのテーマに対するアンチテーゼというか。シュプリームはプリキュアに興味を持っていて、憧れている。でも強くてカッコいいという、限定的な一面からしか見ていない。「確かに強くてカッコいいけれど、プリキュアってそれだけじゃないでしょ」と。
僕らとしては「プリキュアはなぜ強いのか、なぜ魅力的なのか」というキャラクターの根の部分を描いてきたつもりです。そこを見て欲しい、と思って描き続けてきたわけで。それをまったく理解していないキャラクターが、キュアシュプリームですね。
──本質的な部分は見ていない、と。
田中:そうそう。表面的な部分だけを見て「強いな、カッコいいな、自分もなってみたいな」と感じているキャラなんですよね。ただそれ自体は決して悪いことではないのですが……
──でも見た目はすごく可愛くて。
板岡:ありがとうございます。
田中:意外とって言ったらあれですけど、思ったより良いデザインになったなと思っています。
板岡:そう言っていただけると。
田中:敵役ではありますけど、思ったよりは自分は好きになれたなって。それはデザインの力もあるかなと。最後のラストシーンがああいう形になったのも、そういうものが影響しているのかなと。
──と、いうのは?
田中:最近の『プリキュア』の敵は“倒して終わり”にはなりづらくて。だから今回はなるべく勧善懲悪というか、気持ちよくぶっ飛ばして終わろうと思っていました。だけど最後にやっぱりちょっと……作り手側の想いが出てしまったところです。
それはデザインも含めて、「そう思いたくなるキャラクター」と言いますか。やっぱりぶっ飛ばして終わりにはならなかった。それが良いのか悪いのか分からないですけども。
板岡:ということは、最初の想定ではあのラストシーンではなかったの?
田中:うーん……“つなぐ”っていうテーマがあったので、どこまでいくかは分からなかったんですけど、気持ちとしては本当は綺麗にぶっ倒して終わりたかったです。
──敵キャラクターにも実は切ないバックグラウンドがあって、最後はプリキュアに心が救われて……ということが多いですよね。
田中:そうですね。そうなってしまいがちなので。だから78人のプリキュアで力を合わせて敵を倒す!というところにしたかったんですけど、そうならなかった。でも結局そういう甘い部分も含めて「それがプリキュアだよな」という気持ちもありました。
板岡:なるほどね。
──どの段階でそう思われたんですか?
田中:シナリオやコンテを描いていく中で、ですね。さっき軽く触れましたが、表層的な部分に憧れてしまうのは決して悪いことではないんですよね。特にプリキュアを見るような小さい子の大半はそうでしょうし。シナリオ作成中、鷲尾天プロデューサーからも「プリキュアに憧れることを悪く描くのはやめてほしい」と言われたのを覚えています。そういうことを総合的に考えていったら、やっぱりああいう最後になっちゃった(笑)。
──坂本真綾さんの声も素敵でしたね。シュプリームのデザインはどのように決められたんでしょうか。
板岡:シュプリームは監督とふたりでやり取りをしていく中で固めていきました。最初に大ラフ(おおまかなラフ)があって、それを元に叩き台を描いて。4回くらいやりとりしていく中でちょっとずつ固まっていきましたね。
──今時感もあるように思いました。目の色がカラフルで、髪の毛にはピンクのメッシュが入っていて。
板岡:自分の中の今時感が……世の中とリンクしてないので、そこはどうでしょうか(笑)。でも、「とにかく目力を強くしたい」とは言ってたかな。全体的に白いから、強くしないと埋もれてしまうんですよね。
田中:目元はね、結構色も含めてゴチャついてしまいがちです。でも色をガチャガチャさせたのは意図的にです。
板岡:「サイケな色にしたい」と言ってたよね。自分は「この色ケバすぎないかな」とすごく思ったんだけど、並ぶと他のプリキュアにも馴染むんですよね。
田中:全体で見ると白っぽいから一見儚げなんだけど、目元がアップになると……急に目力というか、圧が強いなと(笑)。それは思ったよりうまくいったなと。
板岡:あ、そうなんだ。よかった。
──プーカ(声:種﨑敦美さん)が切ない目をしているので、その対比が象徴的というか……。
板岡:プーカは「弱気なやつ」「幸薄い感じで」と言われたんです。常におどおどしていて、っていう感じ。
田中:基本的に臆病。まあ良い対比だと思いますけどね。プーカは板岡さんのデザインほぼそのままですね。
板岡:最初に出したデザインの段階で「あ、いいじゃないですか」と言われて。ほぼほぼ変わらなかったですね。
田中:耳の形をちょっと調整したくらいで。
板岡:顔は変わってないですね。プーカは「四角い目にしよう」と自分の中で考えていました。『映画プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日』(2020)でミラクルンを作った時に、四角い目にしていたので、もう1回そういうことをやろうかなと。
で、シュプリームの瞳の真ん中にある大きく丸のハイライトをプーカにもそのまま入れたという感じ。
田中:瞳の真ん中にでっかいハイライトってあんまりプリキュアでは見ないタイプですよね。
板岡:ないですね。『パワーパフガールズ』とかでは見ますけど。
田中:鯉のぼりみたいな(笑)。表情をつけるのは結構難しいですね。
──私は試写会で一足先に映画を見させてもらったのですが、映画が終わったあとも涙が止まらずで。
板岡:『プリキュア』ファンはクると思いますよ。こみ上げるものがあります。
──大人はさまざまな気持ちになると思うのですが、子どもたちに受け取ってもらいたいメッセージについては、おふたりの中でどのように考えられていますか。
田中:映画としては少し対象の年齢層を高めにしちゃった気がするので、子どもたちにどう見えるか、というのは自分の中で少し心配なところがあるんです。普段はもう少し低年齢向けに作るんですけども、自分の中ではかなり珍しく、対象年齢を上にひろげました。
──上というのは、どのくらいの年齢ですか?
田中:いちど『プリキュア』を卒業した子たちですよね。中学生とか。その子たちが見てもある程度面白いと思うものにしたいなと思っていました。だから、子どもが楽しめるものと、そのくらいの年齢層の子たちが楽しめるもの。そこの両立ができるかなあ、というところがありました。
今回の映画は、中盤が結構暗めで、辛いシーンが多かったから。子ども視点だと「あのあたりは見るのが辛いんじゃないかな」とも思ったんです。だから純粋な子ども向け映画かと言われると、自分の中では「果たして?」という気持ちが若干あるんですよね。でもそれは企画段階からある程度覚悟していた事でもあります。周年映画なので、もう少し幅広く、いろいろな人たちが見られるように、と。
昔のプリキュアが山程出てくるので、今の子どもたちには「よく分からないけど、いろいろあったんだな、プリキュアっていっぱいいるんだね」と受け止めてもらえたら、それだけでいいのかなと。
「プリキュアって何?」と言いつつ、答えは提示していないですしね。結局、絞りようがなかったと言いますか。
──それは田中監督の中でも?
田中:我々の中で狭い定義を決めて『プリキュア』を収めるのは違うなと作りながら思っていきました。あくまでも我々の思う現時点での『プリキュア』はこうだよ、とは提示しましたけど、それは見てくれた皆さんに委ねています。みんなが思う『プリキュア』はそれぞれあるよね、と。
子どもたちは子どもたちで、もっと単純に……「プリキュア格好いいな、可愛いな」って思ってもらえたらいいなと思っています。
──今回は4年振りにミラクルライトが復活し、声出しで応援されるお子さんもいらっしゃると思います(ミラクルライトの配布は3年振り。声出しで応援できるのが4年振り。)。これだけ多くのプリキュアを初めて見るお子さんもたくさんいらっしゃるはずです。
田中:正直、子どもたちは全『プリキュア』を見てるとは思ってないです。さすがに20年分は量が多すぎるじゃないですか。自分が知っている子たちを取っ掛かりにしてもらって、興味を持ったら昔の『プリキュア』も見てよ、古いのだって面白いよ、って。
──これまでのシリーズのキャラクターが登場したときに、タイトルロゴが登場するので、それが分かりやすいなと思っていました。
田中:そうですね。紹介画面のようなものは……ストーリーの中で全部のキャラクターは紹介できないので、最低限名前だけでも出しておくかと。単発映画であれば自己紹介パートを作るんですけども。
──それこそ尺の問題もあると思いますし。
田中:まあまあ、そうですね。そういう意味ではプリキュア映画としては、ちょっと特殊な映画だなと自分でも感じています。小さい子たちには普通に見て最後まで楽しんでもらえたらそれだけで嬉しいです。
さっきも言いましたけど、中盤のシュプリームが変身して敵になるシーンとかはわりと怖いので。あそこまでするつもりはなかったんですけど、撮影さんが頑張ってくれて、撮影処理ですごく画面の質が持ち上がっています。
でもその結果、僕も見ていて「え、怖……」と思ってたから(笑)。でもわからないですね。最近の子供たちって、『鬼滅の刃』などの作品にも触れているじゃないですか。
──そうですね。グロいシーンにも耐性があるというか……。
田中:なので表現っていう部分では、どこまでやっていいのか僕自身も今回少し悩んだところがありましたね。少し時代が変わってきているのかもしれない…と。
板岡:「シュプリーム怖い」とならなきゃいいなとは思いますね。やはり目力が強いですし。冷たい目で見るシーンで、子どもが引かなきゃいいなと。例えば、冒頭の鍋のシーンで、コメコメが(プリム[変身前のシュプリーム]に対して)「おかわりするコメ?」って聞いたときの目つきとか怖いじゃないですか。
──あのシーンはドキッとしました。「コメコメになにかされちゃうのかな!?」って。
板岡:(笑)。あのシーンのベタは圧が強いので「わーっ!」てならないと良いなと。でも、カッコいいんですけどね。
田中:一部の大人には刺さるかもしれない(笑)。でも基本的には子どもには好かれないキャラクターだと思いますし、好きになられると展開上ちょっと困ります(笑)。
板岡:プリキュアの解釈も間違っているキャラですからね。しかも「こんなんでしょ?」って感じですから。
──それでいて強い。一度プリキュアを倒している、という。
板岡:宇宙で一番強い設定ですからね。泣き出す子とかがいませんように、って感じですね。でも、大丈夫かな、という気もします。
──ところで、アニメイトタイムズでキャストインタビューをさせてもらった際に“F”にかけて、「これからのプリキュアへのメッセージ(Future)」をうかがったんです。もしよかったら、おふたりからもFにかけて、その質問にお答えいただければなと。
板岡:なんだろうな。「未来も頑張ってね」って感じかな。誰か言ってるかもしれないけど(笑)。
田中:Futureかは分からないですけども……本作は20周年と銘打って作った映画でもあります。でも20年やってきた中でのひとつのポイントであって、ここからもプリキュアは続いていくだろうし、もっといろいろな可能性を広げながら続いていって欲しいなという思いがあります。
現時点ではここが最新のポイントだけど、来週は来週の話数が、再来週は再来週の話数が、と常に進んでいるので、現時点での最新作でも次の未来があります。
だからこの映画のテーマも、まだ見ぬ誰かがつないでいってくれるのではないかなと。我々は今はお腹いっぱいな状態ですけども(笑)。
板岡:作り終わった直後ですからね。今「5年後も宜しくね」と言われても困ります(笑)。
田中:そもそもになっちゃうんですが……“F”っていろいろなFに引っ掛けてはいるんですが、僕としては「FINAL」のつもりでつくっていたんですよ。これは皆さんの意見ではなくて、あくまで僕としては、です。それは人数的な問題もあります。
このまま行けば、5年後プリキュアたちは100人を超えるでしょうから。でも挿入歌の歌詞の中に<Never ever final> って言葉があって。たしかになと。それで良いな、と。
──挿入歌「All for one Forever」(吉武千颯 & 礒部花凜/北川理恵/駒形友梨/Machico/宮本佳那子名義)、熱かったですね。
田中:あれは熱かったですね。いい歌でした。ただ、あの歌にあわせて最終決戦を作ってるので、めちゃくちゃ忙しかったですね(笑)。5分くらいの中に、78人+αの活躍を入れるっていう。
板岡:情報量がめっちゃめちゃ多い。
──瞬きすらする瞬間がなくて。
田中:あの場面にはたくさんのキャラクターが登場するので、一度で把握するのは難しいところもあるかと思いますが……。
板岡:何回も見ていただけたらと(笑)。
[取材・文/逆井マリ]
神奈川県横浜市出身。既婚、一児の母。音楽フリーペーパー編集部を経て、フリーのライターとしてインタビュー等の執筆を手掛ける。パンクからアニソン、2.5次元舞台、ゲーム、グルメ、教育まで、ジャンル問わず、自分の“好き”を必死に追いかけ中。はじめてのめり込んだアニメは『楽しいムーミン一家』。インタビューでリアルな心情や生き方を聞くことが好き。