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『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』福田己津央監督がシナリオ面で一番悩んだこととは【インタビュー後編】

『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』福田己津央監督インタビュー後編|アスランの“あのシーン”は、「彼が完璧でカッコよすぎる」から生まれた!?

“両澤なら「愛だ」という台詞は書かなかったかもしれない”

――今作は、自分も含め、『SEED』のファンにとって見たかったものが本当に詰まっている作品だと感じられたのですが、そこに『SEED』世代のスタッフと一緒に作れたことの影響というのはあったのでしょうか。

福田:いや、少なくともストーリー部分やシナリオコンテに関しては本当に孤独な作業なので、若手のスタッフは関与していないです。単純にそこは自分の中での葛藤ですね。

自分としては、見せたいものを見せているわけではなく、元々両澤が作ったプロットに、最終的には2対2になって、キラとオルフェの力は互角で、ラクスとイングリットのあり方が勝負を分けるという最終的なゴールまで書かれていたので、それに沿おうとは思っていました。

――それを端的に表現したのが、あの「愛だ」という台詞になるんですね。

福田:まぁ、あの辺はちょっとベタベタすぎましたね(笑)。でもあの台詞に関しては、あれを言わないともうどうにもならないなと思って、自分で書きました。「いや、これはキラは言わないかもしれないなぁ」と自分でも思ったりはしたんですが、良いかなと。やっぱり短い間に何かを伝えなきゃいけない時って、ちょっと強い言葉を使う必要がある時もありますから。

もっと時間が取れるんだったら、そこをもう少し詩的な表現に置き換えることもあり得たのですが、そうは言っても『SEED』は恋愛映画じゃなくロボットアニメですからね(笑)。そこは割り切ろうと自分なりに思って、「愛」という言葉を言わせています。……それでも、まぁ言わないかもしれないなぁと今でも思っていますけどね。

――おそらく両澤さんなら、それはやらなかっただろうと。

福田:「愛してる」という言葉が軽いと、彼女はずっと言っていたんです。そういう軽さが視聴者にも軽く受け止められてしまうと。もう見ている人たちも、男と女がいれば愛してる恋してるしか言わないような人たちなんていなくて、もっと複雑で根本的な繋がりというものを求めているんだとも言っていましたね。

実は今のキラとラクスの関係性についても、彼女はあまり乗り気ではなかったんですよ。これは両澤本人が言っていたことですが、「好きな男だったら、なんでそいつにモビルスーツを渡して戦場に出すんだ」と。その一方で愛してる恋してると言ってても、やってることと言ってることが違いすぎていて気持ち悪いと。普通なら、「もう出ていかないで」って言うはずだってずっと言っていたんです。

――確かに、それは頷ける部分があります。

福田:ただまぁ、それじゃあロボットアニメにならないんでね(笑)。何か逃げ方はないかと、ずっと考えていましたね。

――福田監督にとって『ガンダムSEED』は、どういった位置づけの作品なんでしょうか 。

福田:他の作品より少しお金が儲かりましたというくらいで、他にはないですよ(笑)。どの作品も全力でやっているので、『SEED』だけが特別ということはないです。

ただ、やっぱり両澤がプロットを作って、あちこちシナリオも書き残してくれていた作品ではあったので、それを形にしたいという想いはずっとありました。自分なりに考えているところもあったし、両澤の闘病中も「シナリオどうする?」ということはやっていて、結局結論が出ていなかった部分もあったりはしたんですが、その意志は最大限には汲んだつもりです。

ただ、最終的には「作品は監督のものだ」と言って丸投げされていましたね(笑)。両澤は、「TVシリーズは集団作業だけど、映画に関しては監督のワンマンでいい」みたいなことも言っていたんですが、本当はちょっとやりたくないんだろうな、ということは察していました。

「キラとラクス、アスランとカガリで書くことはもう残ってない」とも言っていて、でも実際映画をやるとなったら、その枠を誰が引っ張れるのかとなったらキラとラクスしかいない。そこは両澤も認めていたんですね。

じゃあどういうドラマを作るんだとなった時、そこがなかなか見つからない。もう一回書いていることの繰り返しを特に嫌がっていたので、じゃあああしよう、こうしようと考えてみても『DESTINY』でやったことのしわ寄せがどんどん積み重なっていて、出口のない袋小路になっていたんですね。今回、そこを突破するのが一番大変だったかもしれないです。

――結果として、そこをやりきれたという想いはありますか?

福田:いやー……まだ、「これでよかったのかな?」っていう想いもある感じですね。作っている時って、ある種の客観性を無視して、「俺は今これを作りたいんだ」っていう思い込みでガーッと描いていくんです。

そこから、いざ実際に絵コンテや原画が上がってフィルムが出来上がって、いろんな人たちの意見とか力が入ってきて、初めて客観視できるようになる所があって。その時に、「これって本当に『SEED』かな?」って、ちょっと自分でも分からなかったんです。

もしかすると、これは自分のテイストが出過ぎちゃっていて、本来の『SEED』のテイストとは違ってしまったんじゃないかという不安は、最後までありました。一応、自分では『SEED』のつもりで作ったんですが、やっぱりそれが両澤という作家がいなくなってしまったことの葛藤なのかなという気がします。

――最後に、本作の見どころとなる部分を教えてください。

福田:見どころはいっぱいありますが、「ここを見て欲しい」というのは特にないですよ。最初から最後まで精一杯やったので、皆がそれぞれ面白いところがあるといいなと。

『SEED』って、どちらかというと暗い作品という印象があったと思うんですが、映画って体験とか劇場内での共感というのがすごく大事だと思っているんです。映画館にいるそれぞれの人たちの想いみたいなものって、口にしなくても共有されるというか。例えば誰かが泣いているとか、思わず吹き出しちゃったみたいな、そういう知らない人たちが椅子に座って同じ空間を共有しているというのが、ものすごく大事なことだと思っているんですね。

なので、面白いところがあったら笑って欲しいですし、それが滑ってなければいいなということくらいですね。皆が笑ってくれればいいと思ったところが滑っていたらもう大事故ですから(笑)。

シリアスな作品なので、そこはちょっと心配なところなんですが、でも別にギャグとしてやっているつもりもないんですよ。シリアスな中でも笑えるようにっていうツッコミどころを自分なりに入れて作っているだけで、決しておふざけじゃない。

アスランだって、いつもエロいことを考えているわけじゃない(笑)。あれは彼なりの論理的な戦略ですから。

――(笑いを堪えながら)あれがあったから、シュラに勝てたわけですしね。

福田:シンは直感、アスランは戦略で乗り切って、キラだけは互角で、自分の力だけでは破れないっていう。実は今回は3人とも、女性の力で勝つという構造にしているんです。これはアスランもシンもそうで、女性の力が戦いを左右しているという風に描きかたったんですね。

というのも、そうしないとアスランがカッコよすぎたんですよ。もうちょっと落とさなきゃダメだ、変な戦法使わせてもまだ完璧すぎるから、少しぐらい人間的にダメなところを入れとこうとか思ってやったんですが、ちょっと破壊力が強すぎたかな(笑)。

――少なくとも、自分の周りの『SEED』ファンは大喜びしていました。

福田:大喜びしてる?  本当かなぁ(笑)。ちょっとやりすぎだったかもしれないとも思っていて、カガリのキス顔とか、確かにコンテにも描いてはいたんですけどね。なんかエロすぎないかとも思ったけど、どうせ『SEED』はエロいから、いいかと(笑)。

――(笑)。ありがとうございました。

[聞き手・文/米澤崇史]

『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』作品情報

大ヒット上映中!

配給:バンダイナムコフィルムワークス、松竹

機動戦士ガンダムSEED FREEDOM

あらすじ

C.E.75、戦いはまだ続いていた。
デュランダル議長の死により、デスティニープランは消滅したが、同時に大戦終結後の世界を安定させる指標は失われた。
各地で独立運動が起こり、ブルーコスモスによる侵攻はくり返され、人々はさらなる戦乱と不安の最中にあった。
事態を沈静化するべく、ラクスを初代総裁とする世界平和監視機構・コンパスが創設され、キラたちはその一員として、各地の戦闘に介入する。
そんな折、ユーラシア連邦からの独立を果たした国・ファウンデーション王国から要請があった。ブルーコスモス本拠地へのコンパス出動を求めるものだ。
要請を受け、キラたちはラクスを伴い、ファウンデーション王国へ向かう。

キャスト

キラ・ヤマト:保志総一朗
ラクス・クライン:田中理恵
アスラン・ザラ:石田彰
カガリ・ユラ・アスハ:森なな子
シン・アスカ:鈴村健一
ルナマリア・ホーク:坂本真綾
メイリン・ホーク:折笠富美子
マリュー・ラミアス:三石琴乃
ムウ・ラ・フラガ:子安武人
イザーク・ジュール:関智一
ディアッカ・エルスマン:笹沼晃
アグネス・ギーベンラート:桑島法子
トーヤ・マシマ:佐倉綾音
アレクセイ・コノエ:大塚芳忠
アルバート・ハインライン:福山潤
ヒルダ・ハーケン:根谷美智子
ヘルベルト・フォン・ラインハルト:楠大典
マーズ・シメオン:諏訪部順一
アウラ・マハ・ハイバル:田村ゆかり
オルフェ・ラム・タオ:下野紘
シュラ・サーペンタイン:中村悠一
イングリット・トラドール:上坂すみれ
リデラード・トラドール:福圓美里
ダニエル・ハルパー:松岡禎丞
リュー・シェンチアン:利根健太朗
グリフィン・アルバレスト:森崎ウィン
ギルバート・デュランダル:池田秀一

(C)創通・サンライズ
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