
『東島丹三郎は仮面ライダーになりたい』連載インタビュー第13回:島村二葉役・小清水亜美さん 前編|島村二葉はトラマスターを守りたい。仮面ライダーにも通じる真っ直ぐで強い心を持ったキャラクター
二葉は兄を“信頼”している!?
ーー第6話から登場した二葉。これまでに印象に残っているシーンや台詞はありますか?
小清水:第6話で二葉ちゃんが登場した時の印象は今でも強いです。二葉ちゃんはいたって真面目に生きているからこそ、コミカルなシーンが印象に残っています。「兄貴!殺す!」と思いながらも、ちゃんとツッコミは入れるところとか。そういったやり取りに、ふと愛情を感じるんですよね。
ーー一葉がいると、まともな二葉はツッコミ役に回りがちですよね。
小清水:そうなんです。ツッコむべきところで、ガツンとツッコミのテンションでセリフを言っています。もちろん、それがこの作品の色でもあるのですが、無視してしまってもいいようなところを拾ってあげている。「我慢ならない」という理由もあるのかもしれませんが、やっぱり“何か”があるんですよね。
ーー二葉と一葉の戦いが描かれていく中で、「お前には恨みしかない」など、肉親にかけるとは思えない言葉もありました。一葉役の鈴村健一さんとの掛け合いで、特に意識されたことや考えていたことはありますか?
小清水:ふたりの戦いは“兄妹の対話”なんです。心からの言葉であり、拳で語るシーンだと思っています。ただ、「なぜそこまでできるのか」というと、本当に殺そうと思っているというよりも、「全力でやっても死なない」という絶対的な安心感があるんだろうなと。
ーーだからこそ、全力でぶつかっていけるんですね。
小清水:それを本人が自覚しているかはわかりませんが、ある意味“信頼”している。でも、それはやっぱり家族だからなんです。あれだけ本気で「殺す」と言えるし、本気で全力の殴り合いができる。なので、相手が気絶しているシーンでは、「えっ、嘘でしょ?」というような空気感も同時にあるんです。
つまり、「死ね」と思っている気持ちは本心だけど、自覚のない裏の感情としては「死んで欲しくない」。むしろ「今までどれだけ辛かったか、この気持ちを受け止めてくれ」と、兄に甘えているんだと思います。「気づいてくれ、受け止めてくれ。私はこれだけ辛かったんだ」って。でも、お兄ちゃんはその思いをちゃんと受け止めてくれているので、素敵な兄妹だなと思います。
ーー殺しても死なないお兄ちゃんですからね(笑)。
小清水:本当に助かりますよ。これで弱いお兄ちゃんだったら話は違ってきますから(笑)。
ーー兄と拳での語り合いを終えた後のやり取りも印象的でした。
小清水:そうなんです! 二葉ちゃんが「また戦ってやるよ、じゃあな」って言うんですよね。ずっと兄貴への怒りや憎しみを感じていた中での「じゃあな」の一言に、すごく兄妹らしい感情が詰まっていると感じました。たった4文字の「じゃあな」でしたが、とても印象的な言葉だと思いながら演じていました。
ーーそれ以外にもふたりの関係を感じさせるやり取りが多かったですね。
小清水:「じゃあな」よりも少し前のシーンで、「気絶しているのか?」という台詞もありました。その後に、台本上では「……」で表現されている、お互いにリアクションするシーンがあるんです。(※一葉「気が付いたか?」二葉「こっちの台詞だ」)
これは私も意図したところなのですが、二葉のリアクションを一葉さんと同じように返そうと思って演じました。そこで「この2人は似ているな」と感じてもらえたら嬉しいなと思って。
ーー他にも、台詞にないリアクションの部分で意識したシーンなどはあるのでしょうか?
小清水:なぜ二葉ちゃんはこうなったのか、という回想シーンですね。幼少期のシーンですごく心に残っているシーンがあります。兄のせいで友達が離れていく時に、リアクションを少し入れたんですよ。
「二葉ちゃんのお兄ちゃん怖いから、関わらない方がいいよね」「二葉ちゃんとはもう遊ばない」などと言いながら、友達が離れていく。そのシーンで、「自分はこうして孤独になっていったんだ」という気持ちをリアクションに込めました。
ーー一葉は幼少期から二葉を振り回していますよね。
小清水:第6話で居酒屋に来た一葉に、二葉が「つまみを注文してくれ」という会話があったと思ったら、今度は食い逃げですよ! 「店を乱さないで」「私の人生を邪魔しないでくれ」という思いが、これまでの中で一番強い感情です。
ーーそろそろ一葉を出禁にした方がいいと思うのですが……。
小清水:一葉を出禁にしないところにも、やはり複雑な思いがあるのだと思います。それでも家族だと思っていると言いますか。二葉ちゃんは鬼になりきれていない感じがしますね。
島村二葉はトラマスターを守りたい
ーー二葉にとって、一葉に続いて重要な存在であるトラマスター。彼女との掛け合いは、どのようなことを考えながら演じられていたのでしょうか?
小清水:トラマスターは、二葉にとっては初めて学校という場所以外で関わった人なんです。あまり人と関わる機会を与えられなかった彼女が、家族以外で初めて自分に向き合ってくれる存在、自分と会話してくれる人に出会えた。二葉ちゃんの悩みや想いを、トラマスターは共感こそしないけれど、逃げずに、否定せずに認めてくれたんです。
でも、やはりコミュニケーション能力などが培われてこなかったことによって、二葉ちゃん自身もこじれてしまっているので、大人になってもけっこうなこじれ方をしているんですけど……。
ーーそんな二葉がトラマスターと友達になれたのは、すごい成長ですよね。
小清水:そうですね。「友達になってください」の一言が、どれだけの想いを込めて言った言葉なのか……。それに対するトラマスターの返答も、「いいよ」ってさらっと言ってのけていて、その返しが個人的には最高に好きでした。
ーーそんなトラマスターのことを、二葉が一葉に話すシーンも印象的でした。
小清水:トラマスターのことを含め、二葉ちゃんは過去にあったことを兄に話しています。その理由も、兄に「わかってほしい」という気持ちがあったからだと思うんです。殺したいだけなら、別に過去がどうだったかなんて語る必要はないでしょうから。
それなのに、兄に過去を話したというのは、彼女が一番求めているものが「これだけの思いでここまでこうしてやってきた」ということを兄に聞いてほしい、わかってほしい、という気持ちなんです。
トラマスターの過去回想が入るたびに、二葉の一番強い思いである「私をわかってくれ」「私を見てくれ」という願いが見えてくる。彼女にとってトラマスターは本当に重要な存在です。
ーーただ、マスクの匂いを嗅いだりもしていましたよね。
小清水:あそこの「被っちゃお!」という台詞が、普段の二葉さんとはあまりにも違いすぎて、どうしようかと思いました(笑)。
ーーその流れで雲田が現れた時には、けっこう平然としていて。
小清水:本人も感情を自覚して行動していたわけではなく、「こうしよう」と思ってやっていたわけでもない。心配で体が自然と動いて、トラマスターのところにまで行ってしまった。つまり、思考に関しては後回しになっていて、感情が先走って動いてしまっているんですよね。
ーー衝動的にトラマスターの道場にやってきたんですね。
小清水:そう思います。二葉ちゃんのトラマスターへの気持ちは、本当に純粋な友情や、家族のような愛情なんです。ただ、残念ながら彼女は育っていく過程で、家族や友達への愛情を自覚することなく育ってしまった。だから、その“愛情”というものが何なのか、自分でよくわからなくなっているんです。
小清水:そのせいでパニックと言いますか、「恋なのか?」と勘違いしてしまうほど、奇行に近い行動を取ることもあります。それも、全部兄のせいです(笑)。
ーーそうですね(笑)。
小清水:でも、雲田と対峙するときは、「大切なものを守ることに迷いはない」と純粋に思える。とはいえ、本人がその時に深く考えていたかというと、きっとそうじゃない。思ったままに行動した結果だと思います。お兄ちゃんとのしがらみも、その少し前にある程度は解消されていたから、より清々しい気持ちだったのかもしれません。
ーー誰かを守りたいという気持ちは、一葉とも共通していますね。
小清水:そう考えると、二葉ちゃんも、やっぱり一葉さんの妹なんですよ。二葉ちゃんにも“ヒーロー”らしい、仮面ライダーに通じる真っ直ぐで強い心、「何かを守る」「正義を貫く」といった気持ちがあるんです。
[インタビュー/小川いなり 文/柴山夕日]

































































